序文
昨年、本紙の新年号に「古今東西・酒ばなし」という駄文をモノしたら、口のまがった悪友どもから「さすがは20年のキャリアだ。その飲み代をそっくり定期にまわしていたら、今どろ貸しアパートの1軒や2軒、かるく建ってたろーにー。」と変に人を腐らせるようなホメ方をされた。
「なに言ってやんでぇ。こちとらは江戸ッ子だいッ、同じ建てるなら胃の中に酒倉を建ててやるわい」と、威勢のいいタンカをきったものの、ちょっと惜しい気もする。
そのキャリアを買ったのか、あるいはこちらをすでにその仲間とみたのか、こんどは「世界アル中物語」を書けとの本紙の注文である。が、これだけは「ほい来た」とばかりに引き受けるわけにはいかない。といって別に本紙のスポンサーに遠慮しているわけではない。ただ、「アル中」となると、どうしても話が悲惨になるし、筆者自身、身につまされるようでイヤである。
酒の話はやっぱり楽しく、愉快で、罪のない方がよい。そこで今回はもっぱらそういう話だけを集めてみた。題して「酒は百楽(らく)の長」・・・わざわざカナを付した楽は誤植を防ぐためである。
表題の由来
まずは表題の由来である。場所はおでん屋のとまり木でも差し向かいの4畳半でもかまわない。
「おい、1本つけてくれよ」
「ねぇ、もう1升も飲んでいるのよ」
「心配するなよ、酒は百薬の長っていうじゃないか」
「さぁどうかしら」
「じゃ、酒は百楽の長、っていったらどうだい、もう1本だけたのむよ」
「そうねぇ、お酒だけがあなたの楽しみですものね」
文字というのは不思議なもので、「薬」という字から草かんむりをとっただけで、こうも情勢が変わってくるのである。