横文字ついでに終戦直後の愉快な話を1つ。あれはたしか1950年頃だったと記憶しているが、当時私が住んでいた村の駐在にT・Kという巡査がいた。戦前は馬車引きをしていたという、実に傑作なオッサンで、酒を飲んだときのこの人の自慢話は、到底そこいらのかけあい漫才の及ぶところではなかった。わけてもブロークン・イングリッシュの話ときた日には腹の皮の予備をもってでないと聞けないほどであった。
ある日、N村のSという部落で火事がおきた。慌てふためいたT巡査、ちょうどそこを通りかかったMPカーを呼びとめて、いきなり「ユーMP、ミーCP、Sクワジ、クワジ、ハーバー、ハーバー」とやったら、10分もたたぬうちに軍の消防車がかけつけてきたという。
これに気をよくしたT巡査、今度は台風で自分の家が傾いてしまったので、それを修理するための材料をもらいに、単身軍の資材集積所にでかけて行った。そのときの文句が「タイフウ カムカム、ミーハウス オンブリヤー ゴー、ギブミー ザイリョウ」というもので、これに手振り足真似を入れてかけあったというのだから、相手がどんな顔をしたか、だいたい想像がつこうというもの。案の定、「ユー・トゥ」(あなたも酔っていますね)と、軽くいなされてしまったということである。
こういう話が飲むほどに酔うほどに延々と続き、しまいには「ブロークン・イングリッシュ」が「ブロークン・飲酒」に変るといった寸法だか、それがまた、わが愛すべきT巡査のT巡査たるゆえんでもある。
【酒は百楽の長 vol.4 酔ったふりして に続く】