酒は百楽の長 vol.7 ケンカの割り勘 文/伊坂義郎(昭和46年1月10日)

  • [公開・発行日] 1971/01/10
    [ 最終更新日 ] 2016/02/17
   

どうも話が柔かくなりすぎたが、ここらでグッと男っぽい話を1つ。筆者の昔からの友人にGという男がいる。1971_1_10_sake-is-the-best-of-all-pleasant_vo7_quarrel-dutch-treat酒飲みで、喧嘩っ早いが、義理人情に厚く、「人生劇場」の青成瓢吉みたいな男である。

話は今から17~18年前にさかのぼる。当時、Gと私はともにコザで軍作業に通っていて、よくコザの街を一諸に飲み歩いたものである。ある晩、もう1人Nという同僚と3人で飲みにでかけ、例によって2~3軒はしごした後、コーヒーでも飲もうと、とある店に立ち寄ったところ、すぐ後から入って来た、やはり3人づれの男の1人にGがいきなり喧嘩をふっかけられ、最初のパンチでもののみごとに前歯を2本折られてしまった。

おさまらないのはGで、「表へ出ろっ」というわけで、たちまち取っ組み合いの大喧嘩となった。ところが場所がセンター大通りのど真ん中ときているだけに、みるみるうちに黒山の人だかりがしてきたので、2人ともまずいと思ったのか、あらためて11時に近くの墓地でやり直そうということでその場はおさまった。

それから1時間ばかり時間をつぶしてから指定の場所へ行ってみると、相手はすでに来て待っていた。連れの2人がこちら同様、介添えとしてついてきている。ところが時間までにはまだ5分ばかり間があったので、どうにも白けた格好になってしまった。そこで当人同士話し合った結果、結局折った本人が歯を植えるということで決着がついた。

歯の治療代は800円で、後日Gと2人で相手の勤め先へ取りに行ったが、800円といえばその頃としては大金である。Gも相手から一応その金は受け取ったものの、やはり相手が気の毒になったと見えて「昔から喧嘩両成敗ということがあるし、お互いにあまり裕福ではないのだから、この喧嘩割り勘にしよう」と言って、そのうち半分を返してしまった。この気っぷにはさすがに相手もホロリときたらしく、「すまない」と一言って握手を求めてきた。

酒の上での喧嘩もこんなふうに片がつくと実に気持のいいもので、Gの前歯は、今なお、この若き日のできごとを象徴するかのように、サンゼンと光りかがやいている。

酒は百楽の長 vol.8 会議中のバー・次善の策 に続く】

 

酒は百楽の長

酒は百楽の長 vol.1 序文・表題の由来
酒は百楽の長 vol.2 オードブル2杯
酒は百楽の長 vol.3 ブロークン飲酒
酒は百楽の長 vol.4 酔ったふりして
酒は百楽の長 vol.5 小ばなし天国
酒は百楽の長 vol.6 なくて七くせ
酒は百楽の長 vol.7 ケンカの割り勘
酒は百楽の長 vol.8 会議中のバー・次善の策

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