酒は百楽の長 vol.4 酔ったふりして 文/伊坂義郎(昭和46年1月10日)
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[公開・発行日] 1971/01/10
[ 最終更新日 ] 2016/02/17 - 飲む
酔っぱらいというのは、えてして自分か酔っていることを認めようとしない。その点、気狂(きちが)いよりもなおタチが悪い。というのは、苦から気狂いは雨が降ったら雨やどりをするが、酔っぱらいは平気で濡れて歩いている・・・と言われているのでもわかる。
ある男、真夜中に酔っぱらって帰ってきたら、女房の側に他の男が寝ている。見咎めて、「おい、お前の隣に寝ている、そいつは誰なんだ」といったら、女房、すかさず「馬鹿ねぇあんた、すっかり酔っ払っちゃって、あんたに決まっているじゃないの」。すると夫「いや、それはわかっているんだが、今度はここに立っているこのオレが誰なのかわからなくなってきた」というフランス小話がある。
この話どこかで聞いたと思ったら、落ちが落語の「忽骨長屋(そこつながや)」にそっくりである。どこの国にも間抜けた野郎はいるものである。
ところでひところ「酔っ払ったフリして人の彼女をかっぱらったね」という歌が流行だったが、世の中には次の小話に出てくるような図々しい男もいるんだから、女房や恋人を持つ男は十分気をつけた方が身のためである。
カンバン間際の酒場で、したたか酔っ払った男が2人話し合っていた。「おい、もう1杯だけ飲んで、それから若い女の子を探しに行こう」「いやもういいよ、若い女なら家へ帰れば女房が居るよ」「そうか、そいつはステキだ。じゃあ、おれは酒だけもう1杯ここで飲んで、そのあとは君の家に行こう」。
【酒は百楽の長 vol.5 小ばなし天国 に続く】