文字といえば、最近バーでも食堂でもやたらと横文字をつかいたがる。メニューに日本語と並べて書いであるぶんにはかまわないが、それをそのまま口に出して言われるとどうにもキザに聞こえてしょうがない。
例えば、ちょっとした食堂に入って、ソバとメシを注文すると、きまって「ソバ 1つ、ライス付き」とくる。そんなことなら、ソバも英語か何かにしてしまえば良さそうなものである。
かと思うと、クラブと名のつくところでは、ホステスも気どったもので、決して「ビール1本」という通し方はしない。「ワンビア」である。なるほど、それならばと、試した「ワンビア2本くれ」とやったら、うまくひっかかって、そのまま通してしまったホステスがいた。
これが客の方になるとなお傑作なことになる。本土でもまだテレビが出はじめの頃、嘉手納航空隊に勤めていた軍作集員が数名で本土研修に行ったときの話である。東京であるレストランに入ってメニューを広げると、下の方に「当店はテレビジョン付きでお客機にサービス致しております」と書いてある。それを見た一行の1人が心配そうにつぶやいた。「オレはテレビというのはまだ食ったことはないけど、大丈夫だろうか」と。
いま1つ、これも古い話だが、桜坂のあるクラブに若い女の子を連れて入ったキザな男。女の子に良いとこみせようとしたのはいいが、ボーイを呼んでおもむろに注文したのが、なんと「オードブル2杯」であった。見なれない横文字には口を出すなということのいい見本である。
【酒は百楽の長 vol.3 ブロークン飲酒 に続く】