どうも話が柔かくなりすぎたが、ここらでグッと男っぽい話を1つ。筆者の昔からの友人にGという男がいる。酒飲みで、喧嘩っ早いが、義理人情に厚く、「人生劇場」の青成瓢吉みたいな男である。
話は今から17~18年前にさかのぼる。当時、Gと私はともにコザで軍作業に通っていて、よくコザの街を一諸に飲み歩いたものである。ある晩、もう1人Nという同僚と3人で飲みにでかけ、例によって2~3軒はしごした後、コーヒーでも飲もうと、とある店に立ち寄ったところ、すぐ後から入って来た、やはり3人づれの男の1人にGがいきなり喧嘩をふっかけられ、最初のパンチでもののみごとに前歯を2本折られてしまった。
おさまらないのはGで、「表へ出ろっ」というわけで、たちまち取っ組み合いの大喧嘩となった。ところが場所がセンター大通りのど真ん中ときているだけに、みるみるうちに黒山の人だかりがしてきたので、2人ともまずいと思ったのか、あらためて11時に近くの墓地でやり直そうということでその場はおさまった。
それから1時間ばかり時間をつぶしてから指定の場所へ行ってみると、相手はすでに来て待っていた。連れの2人がこちら同様、介添えとしてついてきている。ところが時間までにはまだ5分ばかり間があったので、どうにも白けた格好になってしまった。そこで当人同士話し合った結果、結局折った本人が歯を植えるということで決着がついた。
歯の治療代は800円で、後日Gと2人で相手の勤め先へ取りに行ったが、800円といえばその頃としては大金である。Gも相手から一応その金は受け取ったものの、やはり相手が気の毒になったと見えて「昔から喧嘩両成敗ということがあるし、お互いにあまり裕福ではないのだから、この喧嘩割り勘にしよう」と言って、そのうち半分を返してしまった。この気っぷにはさすがに相手もホロリときたらしく、「すまない」と一言って握手を求めてきた。
酒の上での喧嘩もこんなふうに片がつくと実に気持のいいもので、Gの前歯は、今なお、この若き日のできごとを象徴するかのように、サンゼンと光りかがやいている。
【酒は百楽の長 vol.8 会議中のバー・次善の策 に続く】