逸材探訪~鑑定官が若き匠に聞く(沖縄国税事務所鑑定官編)~

   

今から約70年前の沖縄戦において、鉄の暴風と呼ばれる米軍の猛爆は、首里の泡盛酒蔵を完全に破壊し、その設備、技術、両面から泡盛業界に大打撃を与えました。その後27年間に及ぶ米軍統治時代には大量の外国産ウイスキーが沖縄に持ち込まれ、かつては家宝として大切にされていた泡盛が、いつしか、まずい酒、貧乏人の酒とのレッテルを貼られ、飲食店においてはカウンターの下に隠されるほどの扱いを受けます。

沖縄が本土に復帰した昭和47年、県内に国税事務所が設置され、鑑定官が置かれることとなります。鑑定官とは、間接国税課税物品である酒類の安全性を確保し、酒類業の発達を技術的側面から支援するいわば酒の専門家で、泡盛が現在のごとく、沖縄の宝としての地位を取り戻しつつある背景には、泡盛蔵元の努力とともに、歴代鑑定官の功績が少なからず存在しています。

今回、弊紙においては、沖縄国税事務所に協力を仰ぎ、酒の専門家である鑑定官を聞き手として、次世代の泡盛業界を担い泡盛の造りに携わるメーカーの若く有望な技術者にスポットを当て、その人となりを紹介する新企画「逸材探訪~鑑定官が若き匠に聞く」を連載することとなりました。

今回は、その序幕として、メーカー技術者ではなく、沖縄県ご出身のベテラン鑑定官である髙江洲朝清鑑定官にお話を伺いました。

逸材探訪(プロローグ)~ベテラン鑑定官に聞く~
(聞き手:沖縄国税事務所 小濱元主任鑑定官)

小濱:早速ですが、髙江洲さんの経歴について簡単にお教えください。

2016_look-for-outstanding-talent_vol1_takaesu-technical-officer_taidan髙江洲:その前に、今回の企画である「メーカーの若き匠に聞く」ではなく、露払いの役として、年老いた私から出させていただくこと読者に対して申し訳なく思います。僕はコザ(現沖縄市)出身でして、コザ高校を卒業し、琉球大学の農学部に入学しました。

 

小濱:農学部を選んだ理由はなにかあるのですか?

髙江洲:家が農業をやっていたので、将来実家や農業関係の役に立つ勉強がしたかったんですよ。その中でも、化学系の学科を選びました。

小濱:いわゆる農芸化学ですね?

髙江洲:そうです、さらにその中でも応用微生物を専攻しました。

小濱:鑑定官の道を歩むきっかけは何かあったのですか?

髙江洲:実は卒業後すぐに鑑定官になったわけではなく、大学の先生のすすめもあり、当初は沖縄県酒造組合連合会(現沖縄県酒造組合)に技術者として就職しました。その後、すぐに研修という形で当時は知事公舎の近くにあった沖縄県工業試験場(現沖縄県工業技術センター)で酒造りやその分析方法などを学ばせていただきました。そんな中、当時の沖縄国税事務所の玉城鑑定官が泡盛1号酵母の分離に成功しそれを頒布するという事業がスタートし、そこに関わるようになったんです。

2016_look-for-outstanding-talent_vol1_takaesu-technical-officer_kohama小濱:玉城鑑定官が泡盛1号酵母を分離した背景は何があったのですか?

髙江洲:泡盛1号酵母が分離される以前は、どの酒屋(泡盛メーカー)も純粋酵母を持たず、酒質がおかしくなったらお互いに近くの酒屋からモロミを差しモトとして融通してもらう状況でした。でも、それを繰り返すとどんどんモロミに雑菌が多くなってしまうので、業界から純粋酵母を分離してほしいという要望が出ていました。この純粋酵母のおかげで、酒質も安定しアルコールの収得度合もずいぶんよくなりました。

小濱:泡盛1号酵母の頒布はスタートから全泡盛メーカーに対して行ったのですか?

髙江洲:まずは本島内の那覇を中心として頒布をはじめたのですが、やがて北部や宮古・石垣の離島からもほしいという要望が出て希望するメーカーに頒布しました。また、頒布方法も種モロミから酵母だけを送れるように改良したりして、それら事業に関わるうちに、結果10年間ほど酒造組合の技術員としてですが、国税事務所の鑑定官と共に仕事をすることになりました。

その後、この酵母の分離に深く関わった鑑定官が異動や退官することになるタイミングで、この酵母の頒布事業を続けるという必要性もあり、酒造組合連合会から国税の職員となり鑑定官の道を歩むことになりました。もう、あれから20年以上経ちましたね。

小濱:鑑定官になったときの印象はどうでした?

髙江洲:現在もそうですが、ほとんどの鑑定官は国家公務員の上級試験(現国家公務員総合職試験)を合格して、地域によっては先生と呼ばれる立場ですので、その一員になることに対し、身が引き締まる思いでした。

小濱:鑑定官生活で、印象深かったできごとは何ですか?

髙江洲:熊本国税局にも6年間赴任したことがあるんですが、赴任した直後は、日本酒の”飲みきり”で相当肝を冷やしました。

小濱:冬に製造された貯蔵中の清酒の酒質や熟成の進み具合を、夏場に官能評価したり、微生物検査する”飲みきり”のことですね。

髙江洲:そうです。1回に150点ほどのきき酒をする訳ですが、泡盛なら自信があるものの、清酒となるとこれまでとはまた違う酒質を評価しなければならず、はじめはうまく点数をつけることができませんでした。「鑑定官がきき酒できないなど許されない」という想いから、一時は辞職して沖縄に帰ろうとまで思い詰めましたよ。

小濱:どのようにして克服したのですか?

髙江洲:先輩がつけた官能評価と実物を何度も何度もチェックして、訓練しました。ある時、つわり香を利き分けることができるようになり、これなら行けると自信を持ちました。

小濱:つわり香とは、ジアセチル系の不快臭ですね。確かにあれはわかりにくいですね。泡盛に関しては何か思い出深いできごとはありますか?

2016_look-for-outstanding-talent_vol1_takaesu-technical-officer_kikisaake髙江洲:思い出深いといいますか、鑑定官になった当初は、まだ泡盛業界も下火で、メーカーに優秀な人材を定着させることに私なりに努力しました。できるだけ業界との風通しを良くして、工業試験場の方も含めて月に1回程度飲み会を開いたりとかしましたよ。

その他で言えば、大正15年に当時の沖縄県立農林学校の田中愛穂先生が書かれた「琉球泡盛ニ就イテ」という数百ページに及ぶ調査報告書を7名の技術者といっしょに現代語に翻訳したりしたことが想いで深いですね。

小濱:泡盛業界の若手技術者たちに、がんばってほしいと思うことなどありますか?

2016_look-for-outstanding-talent_vol1_takaesu-technical-officer_syoujyundansyaku髙江洲:私が長らく思っているのが、尚順男爵(琉球国王・尚泰王の四男)の遺稿集に古酒の香りが3種類あると書いてありますでしょ。トーフナビーかざ(ホウズキの香り)、ウーヒージャーかざ(雄山羊の香り)、白梅香かざ(びん付け油の香り)。せっかく古い記録があるわけですから、いつか技術者や関係者がそれらを復元させてこれがその香りだと明確にできたらいいですね。

 

小濱:若手鑑定官に対して何か伝えることはありますか?

髙江洲:信頼され頼られる鑑定官になるように、技術や知識の習得ももちろん大切ですが、関係者とのコミュニケーションをきちんととってほしいですね。例えば、3代目の原田主任鑑定官は、見た目はとてもゴツイ方でしたが、フットワークがとても軽い方であったと聞いています。電話があったら、すぐにオートバイで現場に向かう。顔を合わすことで相手も相談しやすくなるからと当時を知るメーカーの方々がよくおっしゃっていました。その点私は地元出身だったので、すぐに顔を覚えてもらえて助かりましたが。

あと、若い人には難しいかもしれないけど、泡盛を飲みながらのノミニケーションもできればやってほしい。そういう時に得た知識や情報も後々役に立ったりしますので。

小濱:私も心がけます、お酒は嫌いな方ではないので(笑)最後に、広く業界全体に対する要望、展望などがあればお聞かせください。

髙江洲:ちょっと苦言になるかもしれませんが、100年前の田中先生(前述「琉球泡盛ニ就イテ」著者)もおっしゃっていますが、各泡盛メーカーが自分のことばかりでなく、広く業界全体のことを考えて、もっと団結してほしいですよね。

小濱:清酒なら支部単位や県単位で「○○に勝つぞ!!」ってやっていますよね。

髙江洲:業界が真摯に力を合わせれば、泡盛は世界に飛躍する酒だと思います。これまでも他の酒類もたくさん見ているので、このことに間違いありません。小さく自分のテリトリーを守るばかりでなく、業界全体として本土や世界に出ていく、そうすることで、沖縄全体が泡盛の島だということで大きくなっていくし、引いては、日本にはすごい酒があるということで日本全体に恩恵が生まれると思います。

小濱:技術面は僕たち鑑定官が業界と連携しつつもっと頑張らないといけないですね。本日は、お忙しい中ご対応いただきありがとうございました。

 

逸材探訪~鑑定官が若き匠に聞く~

Vol.0 「 沖縄国税事務所鑑定官編(髙江洲朝清鑑定官)
Vol.1 「瑞泉酒造編(池原呂桜良さん・伊藝壱明さん・伊佐信二さん)
Vol.2 「久米仙酒造編(中村真紀さん、奥間英樹さん)
vol.3 「忠孝酒造編(井上創平さん・山本博子さん)
vol.4 「瑞穂酒造編(仲里彬さん・渡嘉敷建孝さん)
vol.5 「石川酒造編(石川由美子さん・上間長亮さん・知花賢吾さん)
Vol.6 「波照間酒造所編(波照間卓也さん・波照間拡さん)」」
Vol.7 「崎山酒造廠編(平良良弥さん・比嘉寛昭さん・津波志織さん)

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