茲に昭和49年10月29日付の小紙に〝郷土のもつ良さをみんなで守り大事に育てて誇りにしよう〟という横大見出しで三人の有名人の「泡盛礼賛記」がある。冒頭に掲げた酒に対する心構えを諭しているのは平良幸市さん、河野稔さんに呉屋秀信さんである。平良幸市さんといえば西原村(現町)の村長、立法院議員、沖縄県知事を歴任した人である。河野稔さんは日本銀行那覇支店の二代目支店長、呉屋秀信さんは沖縄県工業連合会の会長職にあったお歴々である。今から三十四年も前のことだが敢えてこのお三方の泡盛に対する〝思い〟を全文掲載して、現今のウチナンチューたちへの教訓にしたい。
(肩書きはいずれも当時・原文のまま)
酒をたしなむ心が欲しい。コップ酒もおかしいな。
沖縄県議会議長平良幸市
「私はウイスキーの味はぜんぜん知らない。泡盛では香りだな。戦前は〝酒を飲む〟ということは「たしなむ」という意味であった。それが今ではどうだろう。味わうという感じが全然ない。もっと酒のこころを知って欲しいと思うね。あのコップ酒もおかしいな。現在の泡盛の生産高はいちじるしく戦前を上回っているというが、本土移出高は戦前の十分の一というのは解せない。〝飲む〟というのではなく捨て飲みしているのだろうかと疑いたくなる。沖縄では、ウイスキーの上等にはコーラーを混ぜる御時世だが、チビリチビリ盃を傾けるところに泡盛の良さはあるのだ。私は泡盛は強いほどよいのだが、最近は体を少しこわして量はあまりいけなくなった。伝統の沖縄の良さを生かすためには酵母菌の新しい発見等もやるべきだと思う。気候風土を生かすためにも研究を進めるべきだ。
泡盛はウイスキーよりいいという人も居るし、あらゆる機会に出すべきだ。そうすることによっていも焼酎にも勝つことだろう。泡盛を〝たしなむ〟という面では戦前のよい習慣を残したいものだと思う。泡盛礼賛のしめくくりとして私の唄ではない〝うた"を一句」。
泡盛の香り君知るや
心しみじみ語りつ飲まむ
宴席でもオリオンビール
日本銀行那覇支店 河野稔
「私は宴席でもビールはオリオンビールをすすめます。
ビールにしろ泡盛にしろ沖縄地元で利用しないと需要は伸びはしないでしょう。たとえば本土で売れなくても沖縄でもっとしっかりすべきだと思う。泡盛の風味など非常に良い。日本銀行きっての酒飲みだが、いつでも球磨焼酎がうまいと言っていたが、その人が過日来島したので、どうだ、といったらこっちのほうがやっばりうまい、といっていましたね。私自身も九州に勤務していましたが、沖縄のは臭みがなくてサラッとしている。翌日に頭に残らない。多少飲み方があって、水を割ったりオンザロックにしたりして飲む。ただひとつ難をいえば、古酒といえども必ず古酒ではなく、ひとつのムラがあると思う。離島の宮古、与那国、伊是名などは非常にうまい。やはりほんものの味はうまく本土へ行く時にはかならずおみやげに持っていきます。はぶ酒は八重山の座喜味のがよい。六年ものだし、生臭みがなく、先だって外国帰りの人に飲ませたら人気があった。料亭などのものは寝かせ方が足りないせいか動物の臭みが多く、処理の問題でしょうか。泡盛は総じて那覇は雑な感じがする。蒸留酒というものは古いほどよいもので、安い焼酎なら別だがほんとうの古酒ならほんとうに寝かさないとだめで、料亭などのものはへきえきしますね。バーなど勿論ですが、沖縄地元の農協などでもウイスキーだけ置いて肝心の泡盛を置いていない。不思議なものです。
2008年3月号掲載
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