目指せ千年古酒!仕次ぎ講座開講(やんばる島酒之会・田嘉里酒造所/文・嘉手川学)

   

平成29年6月24日(土)午後3時から、大宜味村田嘉里集落センター(公民館)において、やんばる島酒之会主催「第三回泡盛古酒を育てる講座」が開催されると聞いたので、泡盛新聞としてはこれは参加すべき講座ではないかと社内で会議したあと、圧倒的コンセンサスを持って4人の精鋭たち(といっても現在我社の活動メンバーは9人だけで、そのうち2人は内勤である)が参加することになった。

2017_06-24_aim-a-thousand-year-old-awamori_awamori-succession-course-opened01この講座は「すべての家庭の床の間に古酒甕を」と提唱している「山原島酒之会」と本島最北端の酒造所・田嘉里酒造所との共催で行われており、講座終了後に古酒を味わいながらの交流会もあるというので、ここは4人のうち1人は犠牲者、あ、違ったハンドルキーパーとならざるを得ないことになった。

 

ちなみに今回、講座に参加する精鋭4人とは、まずボクと、本人はにこやかにしているつもりだが、初めて会った人はだいたいビビってしまう我社の強面主宰、それから県内の泡盛イベントには必ず出没するといわれている「お出かけハマちゃん」こと浜ちゃん。そして、紅一点。今回、新たに立ち上げた部署の調査企画部へ配属となった新入社員のスーパー泡盛ジョーグーマッキーひとみちゃん。ちなみに彼女の名前は「スーパー泡盛ジョーグーマッキー」までが苗字である。この4人のうち誰がハンドルキーパーになるべきか真剣にディスカッションをはじめようとしたら、全員がゆったり乗れる車を持っているのは強面主宰しかいないことが判明し、ここは我社の発展のため、強面主宰に泡盛ならぬ涙を飲んでもらうことになった。

2017_06-24_aim-a-thousand-year-old-awamori_awamori-succession-course-opened02というわけで、強面主宰は当日に浜ちゃんとボクとひとみちゃんと順々に拾い、高速に乗って講座の時間に合わせて那覇を出発した。途中、特筆すべき出来事もなく車は大宜味村田嘉里集落へ到着した。特筆すべき出来事はないと書いたが、スーパー泡盛ジョーグーマッキーひとみちゃんのお母さんが田嘉里出身ということなので、今は叔父夫婦が住んでいる実家に母親に頼まれたブツを届ける使命を帯びていた。それを届けて集落センターに着くと講座の前に田嘉里酒造所の工場見学が行われるというので見学にいく。洗米から蒸し機、麹室などを見たあと、水と酵母を加えたもろみの状態、古酒作りをしているタンクなどが見ることができた。田嘉里酒造の仕込み水や割り水は集落の中を流れる田嘉里川の上流から引いているといい、飲むこともできるというので飲んでみたら、下手なミネラルウォーターなど足元にも及ばないほど美味しかった。この水で田嘉里酒造所の泡盛の水割りを作ったら、美味しさは数倍アップするだろうと思った。

2017_06-24_aim-a-thousand-year-old-awamori_awamori-succession-course-opened03この日は朝からブチクン(卒倒)するくらい暑い一日で、工場見学も終わり講習会まで少し時間があったので、工場周辺を見て歩き共同売店でアイスキャンディーを食べながら時間を潰していると、ひとみちゃんが「叔母さんがみんなにあいさつがしたいといってる」というので、叔母さんの家まで行き、オジさん3人は「姪御さんは(泡盛ジョーグーだけど)、ちゃんとお仕事して我々としても助かってますよ」と、大人として方便を使いつつちゃんとあいさつをしたのだった。

すると叔母さんは冷たいお茶とガラスの大鉢いっぱいに冷えたパイナップルを出してくれた。パイナップルといえばボク的には可も不可もない果物のイメージがあり、とりあえずマナーとしてひと切れくらい口にするか、と口に入れた瞬間、なんとこのパイナップルの美味しさに3人のオジさんたちは感動したのである。平均年齢55歳(だったはず)のオジさんたちにとって今までの人生の中で食べたパイナップルに中では断トツに美味しいパイナップルだったのである。あまりにも「美味しい、美味しい」連発したものだから、叔母さんは気をよくしてもうひと皿のお代わりを出してくれたほどである。

2017_06-24_aim-a-thousand-year-old-awamori_awamori-succession-course-opened04オジさんたちばかり食べるのは悪いので、「ひとみちゃんは食べないの」と聞いたら「私、パイン嫌いだもん」といってまったく食べなかった。「今までに食べたことのない美味しいパインだよ」とすすめても「食べない」という。叔母さんにも「一緒に食べないですか」と聞くと「うちもパイン嫌いだから食べないよ~。あんたなんかで全部食べてね」と。パイン嫌いは遺伝なのか、それとも山原の人はもう食べ飽きているのかと思った。とりあえず、オジさん3人で出されたパイナップルを全部食べたところで、講座が始まる時間になった。

会場に入るとほぼ満席で、空いている席についたとたん講座が始まった。今回の講師の島袋正敏さんは山原島酒之会の顧問で、我社の強面主宰によれば「無私の人。甕の古酒を作ることで儲けようとか営業につなげようという気持ちがまったくなく、純粋に泡盛を愛し古酒造りを沖縄の文化として広めている人だよ」という。なるほど、講座が始まるとその喋り方や声のトーンに何となく人柄が感じられ、話す本人も楽しそうであった。

講義内容はまずはじめに、泡盛のついてのおさらいから始まった。これまで泡盛の歴史や琉球王国時代の交易によるお酒の話、さらにルーツはシャムのラオ・ロン説が有力だったけど、大交易時代の最近の研究ではタイだけでなく中国やインドからも蒸留酒が伝来し、久米人や冊封使の来訪による酒類と蒸留技術の移入の可能性もあることから、今では「複合的な影響下で泡盛作りの基礎が出来た」のではないかという。他にも先ほど工場見学で見たような泡盛の作り方なども詳しく紹介した。

2017_06-24_aim-a-thousand-year-old-awamori_awamori-succession-course-opened05それから島袋さんが甕での古酒造りにはまったのは、古酒の魅力と甕で古酒を育てる楽しさを教えてくれた謝花さんという先輩がいたからだという。その影響で今では自分がその魅力を伝えたいと現在に至っているという。また、「山原島酒之会」はただ泡盛が好きで集まっただけの親睦団体ではなく、文化運動としての活動団体で、戦前には二百年、三百年ものの古酒があったが、73年前の沖縄戦で壊滅的な打撃を受けた、それが全て残っていたら、ユネスコ無形文化遺産として登録しようと運動を起こさなくても、向こうの方から登録をお願いしに来たのではないかとも話していた。

他にも古酒にまつわる話やためになる話、泡盛に関する楽しい話などいろいろ経て、ようやく甕を使った実践的な古酒造り、仕次ぎの講義が始まった。

古酒造りに大切なのはまず甕を選ぶことだ。ただし、新しい甕や古い甕、容量も色々ありどう選ぶかは最終的にはこのみである。それから甕の洗浄。会のメンバーは昔は泡盛蔵から排出されたばかりのカシジェー(泡盛の蒸留粕)を使って洗浄していたけど、真冬は温度差で甕が割れることもあったので、今ではクエン酸を使って洗浄しているという。

続いて甕から泡盛が漏れた場合は酒質に影響を与えないエポグラスという接着剤や漆を使って修理するのがいいと講義。蓋の話では木の蓋なら膨張しても甕を割らないデイゴやガジュマルが最適だといい、甕の口の大きさを調整するときはセロファンがうってつけだと話す。また、最近ではシリコンの蓋が多ので、今の時代なら使い方によってはそれも悪くないという。

ちなみに八重瀬町で古酒用甕を焼いている「ようざん窯」では、甕を購入すると甕の口径に合わせたシリコン蓋もついているのでおすすめとも。そんな話をしながらいよいよ甕に古酒を詰める仕次ぎの実演を行った。

今回、仕次ぎ用に準備された甕は3つ。一番甕(親酒)が8年古酒、二番甕が7年古酒、そして三番甕には3年古酒の入った3つの五升甕である。
2017_06-24_aim-a-thousand-year-old-awamori_awamori-succession-course-opened06今回、仕次ぎをする3つの甕は一番甕と二番甕の年数の間隔が狭いけど、通常間隔は5年から10年と空けたほうが良い。ただし、これも親酒の古さ次第ではもっとあけてもよいという。

島袋さんは仕次ぎを実演しながら、泡盛は時間を経るほど美味しさや香りがよくなる古酒へと変貌する世界でも類を見ない銘酒だという。さらに良い古酒にするためには甕に入れて寝かせて、1年に1度だけ沖縄の伝統的な古酒造りの技法である仕次ぎをすることで百年、二百年の古酒に育てることができると解説した。

実演では、親酒の一番甕からまずは古酒を四合ほど汲み出した。汲み出す量はだいたい容量の10%以内だという。30%や50%を汲み出す人もるけど、島袋さんによれば10%以上だとそれは仕次ぎではなくブレンドになってしまうとのこと。それから汲み出した同じ量の泡盛を二番甕から一番甕へ移し、同様に二番甕には三番甕から移す。そして三番甕には新たに汲み出した分の新酒を継ぎ足した。

一番甕から三番甕へ新酒を入れるまでは時間にして約20分。この時間を面倒くさいと思うか、心地よい時間と思うかによって仕次ぎをする意義が違ってくるともいう。島袋さんはどんなに忙しくても仕次ぎをする時間は至福の時だといった。

続いて別に準備された11年古酒の一石甕で、瓶古酒を使った仕次を実演。その際は、甕からいきなり一升の酒を汲み出し、瓶で熟成した11年古酒の一升瓶をつぎ足した。瓶と甕ではその熟成のスピードが違い、瓶に比べて甕は1.6倍ほど熟成のスピードは早いという。甕をいくつも準備できなくても、瓶古酒を使って仕次ぐ方法があったのかと感心した。

そうこうしいるうちにあっという間に講義は終了の時間を迎えた。最後の質疑応答では会場から古酒にするなら同じ銘柄や酒造所がいいのか、それとも変えたほうがいいのか、という質問があり、それについては「どちらでもいい」との返答であった。古酒にする時の度数を聞かれると、「かならずしも高くなくてもいい」といい、例えば30度ならば、価格的にも入手がしやすく、振る舞い酒として古酒を育てるには、そちらの方が経済的だとも。

2017_06-24_aim-a-thousand-year-old-awamori_awamori-succession-course-opened07そのほか、甕の封の仕方や、甕の手入れなど、参加者が手を挙げていくつかの質問があった。ボクはそれを見て、やっぱりこの講座に参加するだけあってみんな古酒造りに興味があるのだなぁと思った。ボクは自宅に床の間はないけど、子どもや孫のために甕を買って、いつか古酒造りをしてみようかと思ったのであった。

講座の終了後の交流会では、同じ酒だけど瓶と甕で熟成させた古酒の飲み比べや講義で甕から汲み出した古酒の試飲などがあり、また田嘉里酒造の古酒や一般酒がいくらでも自由に飲むことができた。

2017_06-24_aim-a-thousand-year-old-awamori_awamori-succession-course-opened08また、おつまみもオードブルの他に田嘉里集落特産のグラと呼ばれる琉球竹のタケノコが美味しかった。琉球竹はうちなー口でチンブクといい、ボクが子どもの頃は自作の釣竿の材料として使ったり、釣具店でもチンブク竿として売られていた。そのチンブクのタケノコを今回初めて食べたけど、今までに食べたタケノコすべてを入れても上位に入る美味しさだった。何よりもオーロラソースのようなマヨネーズとキムチの素を合わせたキムマヨソースとの相性が抜群で、これだけで田嘉里酒造所の「まるた30度」をロックでグイグイ一気に4~5杯は飲んでしまった。

交流会で仕次ぎした古酒や甕と瓶で熟成した同じ泡盛も飲み比べたけど、今回はあえて試飲した感想は書かないでおく。しいて言えば何を飲んでも超ウメーだったとことを記して、今回のレポートを終了することにした。

(嘉手川学)
~編集部追記~
「あ、試飲の感想をメモするのを忘れたかも」と嘉手川氏は帰りの車で小さく呟いた。
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