美味しい泡盛古酒とブレンダーのいい関係(文・写/沼田まどかアジア局長)

  • [公開・発行日] 2020/12/04
    [ 最終更新日 ] 2021/01/21
   

今年から、泡盛鑑評会(沖縄県・沖縄国税事務所共催)において「泡盛ブレンダー・オブ・ザ・イヤー」が贈賞されることになった。

これは、同鑑評会「古酒の部」に、ブレンド技法によって製造された出品酒のうち、審査結果の最も品質優秀な泡盛のブレンド担当者に贈られるものだ。

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泡盛における「ブレンド」とは、商品化する際に異なる熟成年数の古酒を掛け合わせて風味を整える作業のことを指す。「泡盛ブレンダー」という肩書自体は比較的新しいが、ブレンド作業は泡盛業界では経験的に取り入れられてきた技法のひとつだ。

今回、泡盛古酒のブレンドについて、初代「泡盛ブレンダー・オブ・ザ・イヤー」に輝いた石川酒造場の石川由美子課長代理にお話を伺った。

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古酒の魅力と言えば、年月をかけて熟成させることで得られる多彩な香りがまず挙げられる。ただし、その辺に転がしておくだけで風味が思う方向に向上するわけではない。純粋な熟成年数の価値に重きをおくあまり、美味しさが二の次になってしまっては本末転倒。そこで、商品づくりの際に力を発揮するのが石川さんのようなブレンダーだ。

熟成年数の長さによる古酒単体の味わい深さは確かに貴重に違いないが、石川さんは「泡盛ブレンダー・オブ・ザ・イヤーという賞によって、古酒をブレンドすることで風味が増し、単一の熟成年数だけでは得られない美味しさがあるということを知ってもらう機会になれば」と期待を寄せる。

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石川さんによれば、異なる熟成年数の古酒をブレンドし、新たに生まれる味と香りを予測するには、蓄積された経験が必要不可欠だと言う。

異なる熟成年数の古酒の状態や、管理されている場所、そして、次々と造られる新酒の出来不出来、すべてを把握し吟味したうえで味の方向性を定め、最高の組み合わせと配分を導き出す。

20年前の入社当初は、マニュアル化されることのない業務に戸惑ったそうだが、「蔵の中にあるすべてのお酒を片っ端から味見して、徐々に自分の中に軸となる基準ができた」と言う。今でも必ず年に2回は蔵の中のすべての酒を利き、味わいのデータを集積しているそうだ。この自負が、今の石川さんの仕事ぶりに表れているのではないだろうか。

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ちなみに、沖縄県知事賞を受賞した今年の古酒には、11 年熟成酒 89.3%と 23 年古酒を10.7%配合している。23 年古酒は、上質な蜂蜜のように濃醇でうっとりする香りが感じられる一方で、味わいはややパンチに欠ける。そこで、香りは控えめだが甘味と味わいのしっかりした11年古酒を掛け合わせることを思いつき、風味に力強さとコクを加えることに成功した。

比率としては11年古酒の方が多いが、あくまでも、23年古酒の優れた香りを活かしたいという考えが背景にある。さらに、ボーナスとして、どちらの古酒にも感じられなかった甘いバニラの香りが引き出されたという。

もともと、石川酒造場のお酒はカラメルの香りの出やすい酒質だが、バニラの香りはあまり出ないそうだ。石川さんは「ブレンドすることで予想を超える味と香りが生まれるのが面白い」とにっこり。

最後に石川さんの目指す酒質について尋ねると、「飲みやすさは大切だが、印象に残らないのは寂しい。甕の香りや苦味もほんのりと隠れているような、甘みもコクもある重層的な味わいが理想。じっくりと味わって飲んでもらえるお酒を造りたい」との答えが返ってきた。

現在進行形の製品造りに隅々まで目を光らせながら、ダイヤの原石を探すように後継者のために美味しく育ちそうな原酒に目星をつけて、未来の古酒造りにも思いをはせる姿が印象的だ。

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(文・写/沼田まどかアジア局長)

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