サービスとはなにか~ホステス紙上講座~ vol.1(昭和47年7月10日)

  • [公開・発行日] 1972/07/10
    [ 最終更新日 ] 2016/08/22
   

1972_7_10_part1_hostess-paper-service-improvement-course店を作って、看板をあげたらお客様がくると思ったら大間違い。なにしろ他の商売と違って、お客様が十分にその原価を知っている酒を、その何倍かで売る上に、しかも喜んで、楽しんでもらおうと云うのだから、並大抵でない努力を必要とするのは云うまでもありません。

店の作りがいいとか、音楽がいいとか色々あるにしても、なんといってもお客様の側に運べるホステス達のサービスが大きく左右されるのです。

しかし、このサービスと云う言葉ほど、掴まえどころのないものはありません。辞書を引いたら、“奉仕する”とか“提供する”“協力する”などとまことに抽象的なことしか出ていません。

又、この定義と云うものを書いてある教科書もないのです。それなのに、ママも、マスターも、そしてお客様も「サービスよくしろ」「サービスを上手にして」と皆さんに要求します。

何をどうすればいいのか具体的には誰も教えてくれません。本当に困ってしまいます。特に、初めて、ホステスになった人達は、戸惑ってしまうでしょう。

そこで皆さんにサービスとはこう云うものだと云うことを、実例を上げて説明していきましょう。ともかく、清潔な服装で頭髪はいつも綺麗に言葉使い丁寧に、などと云うことは、接客業に携わる者として当たり前のことであり、サービス以前のこと。皆さんにとっては、それ以上のことが要求されます。

サービスというものは、お客様が「又、来よう」「もう一度来てみたい」と思う様にすることだともいえます。「来なければ良かった」「来て損した」と思われたら、サービスが悪いことです。

この、良くすると言う事は決して難しいことでもありません。

例えばタバコについて説明します。お客様と云うものは非常に勝手なもので、バーとかクラブとかの、ホステスのいる所ではタバコを吸うとき、決して自分で火をつけようとはしません。

その店のお値段のなかに、火をつけてもらうのも入っていると心得ているのでしょうか。自分で自分のタバコの火をつけるのは、何か損をした様な気になっています。

ほとんどのお客様がポケットの中からタバコだけしか出しません。たとえマッチを持っていても、それはポケットの中に入れたまま。そして何気なく、くわえます。「早くつけてくれないかなー」と思っています。

ここで、皆さんの出番ですが、ホステスが気がつかないと客はちょっとガッカリしますが、それでも待っています。あまり長い間待っていると、周りの客が「あの野郎、女に火をつけてもらいたいために、咥えて待ってやがるな」と思ってはいないかなと思いだします。常識があるからです。

「今からおれがタバコを吸うぞ」とそんなことを宣言する訳にもいけません。女性に火をつけてもらいたいのだ。そして、自分でつけるフリをします。まず、入っていない方のポケットに手をつっこみ、あちこち探すフリをします。その点ポケットの多くついた男性の服装は都合がいいとも云えます。

これもあまり長くやっていると、変に思われることも知っています。やっとかっと見つかった様にしてマッチを出して、中から軸木を一本とりだします。「なんて、気の利かないホステスだ」と思いまがら自分でつける様にします。

が、しかし、もう一度だけ皆さんの注意を促すために、床にそのマッチを手許が狂った様にして落して見ます。そのときになってようやくだれかが気づいてくれました。「あらごめんなさい、気が付かなくって」と。さっと皆さんの白魚の様に真っ直ぐに伸びて、美しくマニキュアされた指で手早く火をつけようとします。

お客様の手には今すぐにでもつけられる様になったマッチがあるのですが、そんなことは一向に構いません。「人の好意を無にしてはいけない。せっかく彼女がつけてくれると云うのに」とお客様は思います。そして今までの苦心してこの瞬間を待ったことはオクビにも出しません。

「やっぱり待っていてよかった」「やっと気がついてくれたか、やれやれ」と皆さんに火をつけてもらいます。スッと吸い込む最初の一服のうまいこと。この時、「なかなかサービスがいいじゃないか」とちょっと思います。そして「来てよかったな」と思います。

どうですか皆さん。お客様は苦心して演技をしてまでも皆さんのサービスを待っているものです。お客様はそれほど皆さんからサービスをうけたがっているのです。かと云って、これがあまり過剰になってもいけません。

お客様の誰かが、タバコを吸わないかとキョロキョロして、鵜の目鷹の目、お客様がちょっとでもポケットに手を入れようものなら「タバコをお吸いになるの、火をおつけしましょう」とマッチをとってにじりよる。お客様はポケットからハンカチも取り出せなくなったりします。

又、あまり急いでつけようとしすぎるため、マッチを速く擦り過ぎて、ボウボウ軸木が燃えて、それを見たお客様も慌ててしまって、袋から破りながら取り出したり、間違って吸口のフィルターの方をつきだしたり、ついには間に合わなくて皆さんが火傷したりする結果になります。

これは逆にサービスにはなりません。何事もタイミングと云うものがあります。間(ま)とも云いますが、これがピッタリしたときに「サービスがいい」と思われるのです。

勿論、マッチはお客様の顔にむかってサッと擦ったりしてはなりません。手前に引いてつけましょう。マッチと云うものは、そんなに大げさにしなくても、又、馬鹿力を入れなくても、軽くこすっただけでつくように出来ています。

よく、マッチをくるくるまわして、手品の様にしてつける人がいますが、お客様は鼻先でマッチが安定しないとビックリするものです。そういうことをどうしてもしたい人は、サーカスか曲馬団にお勤めすることをおすすめします。

皆さんがだんだん慣れてくると、お客様のタバコに火をつけるタイミングを多少、じらしたり、又、ワザと客が自分でつけるのを見計らって、横から慌てて吹き消して、「いじわる!!私をいじめる気」とか「どうせそうでしょうよ、私のつけるのなんか気に入らないんでしょう」などと拗ねて見せて、つけてあげたりすることで、かえってお客様を喜ばせることが出来たりします。

お客様の中には、テレて「俺は自分でつける主義なのだ」とつけさせない人もいますが、これは皆さんの火をつけることを予想しての発言ですので、それはそれでよいのです。

又、お客様によっては、つけてもらうとき、皆さんの軸木を持った手をグッと自分の方に引き寄せる人もいますが、その時、彼は無上の喜びを感じているはずですから、どんどん手を貸してやって下さい。

どうですか、単にタバコとマッチ、そしてこの火をつけてあげると云うことだけで立派なサービスとなるのです。初めてホステスとなる人は、このタバコの火をつけてあげることだけで結構仕事になるものです。

何も難しい事ではありません。お金のかかることでもありません。たったこれだけのことから、皆さんは立派なホステスになっていきます。

さぁ、次回から色々と具体的な例をあげて勉強していきましょう!

【寄稿者】
富士観光株式会社顧問
沖縄サントリー友の会事務局長
富浜 和夫氏

 

ホステス紙上講座

vol.0 「序章」
vol.1 「タバコの火のつけかた」
vol.2 「タバコの吸わせかた」

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