【島の酒】うちなーファーム糸満観光農園フルーツワイン工場訪問!(文/嘉手川学)
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[公開・発行日] 2016/08/01
[ 最終更新日 ] 2016/08/02 - 読む
島酒(しまざけ)といえば、沖縄では泡盛の別名ではあるが、沖縄にはオリオンビールをはじめ、ラム酒、ワイン、日本酒、リキュール、焼酎、スピリッツなど“島の酒”も数多く存在する。今回は、その中でも、バラエティに富んだフルーツワインを醸す糸満市摩文仁の「うちなーファーム 糸満市観光農園」を不定期シリーズ“島の酒”としてご紹介したい。
うちなーファームで造られているのは、ビタミンCたっぷりで情熱的な赤い実が印象的なアセロラ、ビタミンCや鉄分、カルシウムなどミネラルが豊富なパッションフルーツ、甘みと香りが強くβカロテンや葉酸、カリウム、食物繊維も豊富で「沖縄では果物の王様」といわれているマンゴー、ビタミンCとクエン酸が豊富で沖縄を代表するかんきつ類のシークヮーサーを使った、沖縄ならではの香りと味わいが感じられる4種類のフルーツワイン。
製造販売のきっかけは「うちなーファーム」の前身である「糸満市観光農園」がパッションフルーツワインとアセロラワインを主力商品として製造販売していたことにある。2005年に開園した「糸満市観光農園」は、利用客の減少と主力商品の販売不振で2014年6月に休園となった。再出発のための出資者を糸満市が全国に求めたところ、いくつかの候補の中から山梨県甲州市勝沼町の国内最古のワイナリー「まるき葡萄酒株式会社」が管理者に選定された。
全国展開を視野に入れていた「まるき葡萄酒」はこれまで観光農園として実績を踏まえつつ園内を整備、フルーツワイン工場も甲州ワインの製造販売をするワイナリーとしての技術と経験を活かし、フルーツワインの製造に力を入れるようになった。
前身の糸満観光農園の主力商品だったアセロラワインとパッションフルーツワインは、施設の開業前から研究、試作が続けられ2005年に工場が完成すると観光農園の開業に合わせて商品化されたという。当時から糸満市はアセロラとパッションフルーツの生産量が県内でもトップクラスだったことから、施設の目玉としてフルーツワイン製造がおこなわれた。
糸満市観光農園の頃からフルーツワイン造りに携わっていた工場長の上原正士さんは、うちなーファームのフルーツワインについて「糸満観光農園ではアセロラワインとパッションフルーツワインが知られていたので、そのまま引き継ぐことになり、新たなバリエーションとして沖縄らしい果物のマンゴーとシークヮーサーのワインを開発しました」と語る。
ワイン造りを引き継ぐにあたり、好評だったパッションフルーツワインは味を変えずそのままの製法を継続、アセロラワインは商品としての開発の余地があったことから大きく改善をした。「パッションフルーツは糖度も香りも高いので、果物の持つそのものの力で苦労なく造れましたが、アセロラは意外と果実の糖度が低く、市販されているアセロラジュースのイメージが強いため、そのイメージの味に近づけるのが大変でした」(上原さん)
アセロラの赤い果実は見た目で甘酸っぱいイメージがあるが、実は酸味と少しの渋みがあるため、酸味と甘味のバランスをよくすることに苦労した。さらにパッションフルーツとアセロラのワインだけでは商品ラインナップとしてインパクトのかけることから、「うちなーファーム」のリニューアルオープンに向けて南国らしいの果物のマンゴーと、沖縄ならではの果実のシークヮーサーのワインを加えた。
上原さんがワイン造りを始めたのが9年前。糸満市観光農園に入社してからのことである。それまで発酵や醸造とはまったく縁のない職業についていた。はじめはただただ不思議な世界だったが、仕事を覚えていくうちに原料の果実を加工して発酵させるとワインが出来上がることに驚きと喜びが感じられるようになっていった。毎日同じようでもワイン造りには日々発見があり、毎日が勉強だったという。それは今でも変わらず、本社の山梨のワイナリーから来た技術者たちの指導や話には今でも驚きと発見があり、いつでも勉強になるという。
沖縄県は地理的条件や気候的に発酵しやすい地域にあるため、泡盛などの蒸留酒造りには向いているが低い気温での発酵が求められるビールや日本酒、ワインなどの醸造酒造りには厳しい環境ではある。それでも現在ある2種類の酵母を使って何度も試験醸造をやったり、発酵の気温や甘味果実酒としての加糖の割合など、果実の持つ味と香りを残しながら発酵させることを繰り返し、現在のフルーツワインは生まれた。
レストランを担当するソムリエで料飲課の大橋春奈さんはフルーツワインについてこう語る。「フルーツワインはワインが苦手な人でも気軽に入りやすいですね。人間の味覚は酸味と渋みは経験と学習によって美味しいと感じるもので、甘さは年齢に関係なく美味しいと感じられる味覚なんです。また、シークヮーサーワインは甘さの中に渋みと酸味がありワインが好きな人に人気です。パッションフルーツワインはフルーティーで白ワインに近い味わいがあり、料理に合わせやすいですね。マンゴーワインは甘みと果実味がしっかりあるので、女性や海外の観光客に人気。アセロラは酸味と甘みのバランスが一番良いです」。
うちなーファームのワインの原料はすべて沖縄県産。パッションフルーツは自社農園100%、アセロラは糸満産100%、シークヮーサーとマンゴーは100%県内産でまかなっている。「園内には生産量をまかなえるだけのパッションフルーツのハウスがあります。また、シークヮーサーは皮ごと絞っているので独特な苦味があるんですね」と上原氏は語る。
ワインや日本酒は醸造できる時期が決まっているけど、フルーツワインは通年で製造している。最盛期に果実を加工して冷凍にすることで旬の味と香りの感じられるフルーツワインになる。また、県内には泡盛をベースにした果実酒やリキュールは数多く生産されているけど、果実そのものを風味を残したままに発酵させたのは、唯一無二のここのワイナリーのワインだけである。
最後にそれぞれのフルーツワインの特徴と、それに合う料理を大橋さんに聞いたところ、「マンゴーワインは凝縮された果実味と甘味が一番強く甘党の方に向いているので、フルーティーな欧風カレーやチョコレートとも相性はいいです。シークヮーサーワインは研ぎ澄まされた酸味と心地よい苦味が前面に出ており、白ワイン用ぶどうのソーヴィニヨン・ブランのような、青草やハーブ、熱帯果実の香りが特徴なのでハーブ料理や野菜サラダ、タコスなどに合います。パッションフルーツワインは酸化防止剤無添加なので、華やかな香りが特徴。複雑な香りと味わいのする料理によく合います」とのこと。
鴨肉のオレンジソースやローストターキークランベリーソース、カルボナーラやクリームソース系のパスタにも合うかもしれない。
大橋さんは「アセロラワインはミートソースや甘さと酸味のバランスが取れているのでトマトソース系の料理に合うと思います。一般的な通説としてワインでは近い色の料理が会うと言われているが、フルーツワインもそれに近いのがあります。白ワインのようなシークヮーサーワイン、ロゼのような色合いのパッションフルーツワイン、赤い色のアセロラワインは赤ワインように、それぞれの色の料理が合うと思いますよ。マンゴーワインはそのまま、デザートワインとしても楽しめますよ」と続けた。
山梨県勝沼のまるき葡萄酒のワインも販売している売店では、ガラス越しにフルーツワインのボトリングしているワイナリーの様子をうかがい見ることもできる。
・パッションフルーツワイン 500ml アルコール度数12度
・アセロラワイン 500ml アルコール度数8度
・マンゴーワイン 500ml アルコール度数8度
・シークヮーサーワイン。500ml アルコール度数8度
~うちなーファーム紹介~
糸満市摩文仁の平和記念公園近くにあり、糸満市観光農園から2015年10月にリニューアルオープンした施設。28万平方メートルという東京ドーム6個分の広い敷地内では、パークゴルフやアスレチック、水牛車遊覧や乗馬体験などの多彩なアクティビティーが楽しめる。また、ヤギやヒツジ、カメやウサギ、カピパラなどの多くの小動物もいて、エサをあげたりなでたりできるふれあい広場もある。熱帯果実園や観光農園ではヘチマやゴーヤー、トウガンやハンダマ、旬の島野菜や熱帯果実の収穫体験もできる。フルーツワインが楽しめる洋食レストランやワイン工場に隣接した売店では、4種類のフルーツワインをはじめ、勝沼のまるき葡萄酒から取り寄せたワインの試飲販売もしている。
うちなーファーム 糸満市観光農園
営業時間 9時30分~17時30分(最終入園17時)
水曜日定休
入場料金武 大人600円、子ども400円(3歳未満無料)
TEL:098-997-2793
糸満市摩文仁1018
http://uchina-farm.jp/