サービスとはなにか~ホステス紙上講座~ vol.2(昭和47年9月15日)
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[公開・発行日] 1972/09/15
[ 最終更新日 ] 2016/08/23 - 読む
さて、前の号でお客様のタバコに火をつけてあげることがサービスにつながることが判ったなら、今一歩これをすすまして、このタバコを利用して売上を促進することも考えましょう。
お客様のなかにはタバコを吸わない方もおられますが、大体において吸う方が多いものです。とくに日頃大した本数を吸わない人でも酒場と云うものは、なんとなくタバコを多く吸わせる様な雰囲気を持っています。
そしてお客様をよく観察していると、お酒を多く召し上がれば多く召し上がるほど、よくタバコを吸っているようです。そこで、これを逆説的に云うと、お客様にタバコを多く吸ってもらえばもらうほど、多くお飲みになると云えそうです。
さぁ、皆さんはお客様にタバコをどんどんおすすめしましょう。
かと云って、只「タバコをどうぞ」「タバコをお吸いになりませんか」と云うだけでは駄目なことは勿論です。お客様が自然にタバコに手が出る様に仕向ける必要があります。
また、初歩的にはタバコを話題にするのも良いでしょう。「まぁ、珍しいタバコねー」「あら、私もあなたと同じタバコなのよ」。
ともかく、お客様のタバコの箱を触ったり、手にとったり、お客様にタバコの存在を意識させます。それでなくても酒場での会話は最初はどこからきっかけをつけてよいやら戸惑うものです。
このときタバコを中心とした話題は最も手近なもので、そしてタバコを多く吸ってもらうことにも役立ち、一石二鳥と云うもの。お客様はツとタバコに手を出します。火をつけてあげることは勿論ですが、お客様に「オレはよくタバコを吸ったなぁ」とか「一寸、吸い過ぎじゃないか」などと意識させないようにして下さい。
そのためには灰皿は頻繁に取り替えて下さい。どんな鈍感な人でも目の前に自分の吸った吸い殻がうず高く積まれていてはイヤでも「たくさん吸ったなぁ」と思って、つい吸うのを控えたくなるものです。
お客様が1本吸うたびに灰皿を取り替えることはありませんが、適当に灰皿を取り替えることも重要な事です。そして、なるべくお客様のすぐ側に近づけておいて下さい。人間は無意識のうちに連想作用が働くものです。
綺麗な灰皿、近くにある。灰皿からタバコを連想します。そして気がついたときにはタバコを吸っているものです。「タバコをどうぞ」と云わなくても、こういった心遣いで結構すすめられますが、だんだん上手になってくると、お客様がタバコを吸い終わってから、皆さんが吸うようにします。
お客様は皆さんの吸うのを見て、又タバコに手が出る事にもなります。ここで注意しなくてはならいのは女性のタバコを吸う態度です。
これは、やはり慎ましくした方が美しく見えるものです。近頃ではこのタバコを1つのアクセサリーとしての考え方もあるようです。いくらタバコを吸うからと云って、女性が花の穴からプカプカと煙を吹き出すのはいただけませんし、見ている方もガッカリします。くわえタバコなどはもってのほかです。
よくマニキュアされた美しい指に軽く挟んで控えめに吸う姿は女性の美しさを余計に引き立てることにもなります。
皆さんがタバコを取り出すとお客様が、よく火をつけて下さいます。「あら、いいんですの」なんて云わないで、どうぞ付けさせてあげて下さい。男性は女性をいたわりたい、何かをしてあげたいと云うナイト的精神もあります。
又、昨今はフェミニストまでいかなくても女性に奉仕する風潮が強くなってきました。「あら、お客様につけて頂くなんてサカサマだわ、私はホステス落第ネ」とか云ってどんどんつけさせてあげて下さい。つけさせてあげることが、お客様が紳士としての資格を得たように満足しています。これは1つのサービスと云えます。
とくにお客様が立派なライターを持っているときなどは、見てもらいたいと云う気持ちも大きいのです。皆さんは大いに褒めてあげて下さい。「スバラシワー」「ずいぶん高価なものでしょう」、見慣れたものでも初めての様に感激して見てあげる、これはサービスです。
また、珍しいマッチをもったときも同じことです。××温泉、○○ホテルなど、「まぁ、ご旅行なさっていたの」「私も行ってみたいわー」など。お客様はそのライターやマッチのために、またまたタバコをくわえます。
皆さんがタバコを吸えない場合でも、お客様のタバコをとって1本抜き出して、皆さんがくわえる。お客様が火をつけてくださる。それからその火のついたタバコを今度はお客様にお返しする。お客に変わってつけてあげることにもなりますが、このとき「わぁ、やっぱりすえないわ」と、ちょうど子供が大人の真似をして、いたずらしたのを見つけられた時のように一寸肩をすぼめて差し出す。演技がともなったりすると、「この女性は可愛いな」と思われたりします。
そしてお客様は今、自分が吸ったタバコをもみけしたばかりでも、それを引き受けて又吸い続けてくれるものです。そのとき、口紅つきのタバコは失礼に当たるなどと決して思わないで下さい。口紅つきのタバコは1つのサービスでもあります。
「君と俺の間接キッスだネ」お客様はどんどんタバコを吸ってどんどん飲物を召し上がることになります。お客様の肺がんの心配をするより、タバコと売上の関係を考えて、皆さんが立派なホステスになることの方をとりましょう。
【寄稿者】
富士観光株式会社顧問
沖縄サントリー友の会事務局長
富浜 和夫氏