〔2002年12月号からの続き〕
確か以前にもこの欄で書いたおぼえがあるが、私の生まれ育ちは本部町字具志堅で、この町は27ヵ字から成り立っているが、字具志堅と字瀬底は山羊をピージャーと称している。
瀬底のピージャーオーラセーは有名だ。国文学者の新屋敷幸繁先生(故人)のお説によるとヤマトの羊がわが沖縄に入ってくると、ヒッジャーとなり、ヒージャー或いはピージャーと呼ぶようになったそうだ。
昔々は1年の間で1、2回しかお米のごはんが食えなかった頃、お産が間近かになった妊婦にピージャーをつぶしておつゆを焚いて食べさせた。
パッサン(発散?)して安産すると言われていた。クスイムンとかシンジグスイ(煎じ薬)として重宝がられていた。
真のピージャージョーグー(上戸?)はオスかメスか、若いかはたまたそうでないかまでも食べながら解るというからすごい。見上げた「通」である。
我が琉球の先人が偉いと思うのはその汁やさしみにフーチバー(よもぎ)やソーガー(しょうが)を入れて食したことである。
汁やさしみは血圧が上がると、まあ一般的には言われている。片やよもぎは下げるという。つまり双方をうまく中和する役割りを果しているのではなかろうか、と私は考えている。
中味などの吸い物には欠かせないしょうがは汁やさしみの独特な臭いを押さえ、なおかつ味を引き立たせる特効薬だと思っている。
私は30年以上前から泡盛で果実酒や薬味酒を作って楽しんでいるが、よもぎ酒は小さなオチョコ1杯以上は飲まないことにしている。ちょっと度が過ぎるとフラフラすることを経験したからである。
つまり血圧が下がるのでは、と〝自己診断″しているがあくまでも私流だから定かではない。
12支の8番目に出てくる末(ひつじ=ピージャー)は水を飲まないが小便はするといわれている。非常にお利口な動物である。
私が小学生の頃家では牛、豚とピージャーを飼っていたが生まれて間もない子山羊に母山羊がお乳を飲まさない。
雨降りの昼下がりその子供はベーベー鳴きながらびしょ濡れになって台所で唐芋を煮ていた母の側で盛んにせがむのであった。
母はマタヤサヤー(またか)と怒りながら子山羊を連れ親山羊の所へ行き、盛んに〝説教″をしていたのが思い出される。
それで親山羊はお乳を飲ませていたのであるが、きっとその親は自分に迫り来る〝運命″を予知していたのであろうか…。
初めて久米島に渡った時、久米島新聞の平田清社長は(故人)と2人山羊料理を食べたが、久米島ではフーチバーではなくサクナバーという浜端に自生する植物の葉ッぱを入れるのであるが、これがまた汁と調和してうまい。
フーチバーは食べる寸前に分量をわきまえて入れ、おつゆを飲むのがおいしい。翌日までに汁に入れて置くと苦みが出て少々味が落ちる気がする。
ピージャーがほんとうにおいしい所はどこそこ育ちだ、と泡盛仲間のガチマヤー(食いしん坊)達はかまびすしいが、かくいう私も老境にありながらも単なるガチマヤーのたぐいにほかならない。
琉球泡盛を酌み交しながらのピージャー汁やさしみ、チーイリチャーは実に相性がよい。
あい…ダーすっかり恩義を忘れていたさあ。
伊豆見の嘉味田一さん、棚原さんや外の皆さん、過日はおいしいピージャー汁をごちそうになりありがとうございました。
この方々、うりずんの土屋實幸君とは古い友達だそうだ。おいしいピージャー汁にありつけたのも實幸君のおかげである。
2003年1月号掲載