これらの県内産品のほとんどは原材料をヨーロツパや本土からの輸入にたよって行われており、また島内の生産企業の乱立などもあって相当に複雑な問題もあろう。
現在沖縄の醸造工場は、泡盛、ウイスキー、ビール、ラム酒などの生産工場が九十一もあり、ビールとラム酒、清酒を除くほか、ウイスキー泡盛産業の業者が乱立し、過等競争の当然の結果として企業効率は極めて低いようである。 たとえば、泡盛産業では全琉で58工場で65万2千6百リットル(輸出18万6千リットル)という零細ぶりである。
また、ウイスキー業界も14社が輸入ウイスキーやビールと市場獲得合戦で伸び率は低いようである。 酒類の輸入量が多い順序で島内生産量と比較してみるとビールがトップで生産量1千6百90万リットルに対し輸入は本土の各種ビールやフィリピン産のポーターやエールスタウトなどの外国品も含めて133万リットル(金額にして、30万8千ドル)で島内生産量の約10分の1弱である。つまり、オリオンビールはシェア(市場占有率)が90%と云うことになる。
次いで日本酒(主に清酒)が24万リットル(11万ドル)の輸入に対し、島内産は13万8百リットルで島内産のシェアは30%程度、ウイスキーは8万7千リットル(5万7千ドル)で、島内産はモルトを輸入してブレンドしているのとラム酒やブランデーその他も含め雑酒として173万6千リットルとなっている。 この場合はニツカ、トリスなど本土の銘柄をそのまま島内産でも使用されているため、輸入品と島内産の判別はつけがたい。
特にウイスキーの場合は、外国で数年間熟成されたモルト(原酒)を輸入して沖縄で作るアルコール(酒精)と良質な水とをブレンド(調合)したものである。 この場合ウイスキーの価値を決定するのはモルトである。それによって香味、風味などが独特なウイスキーとしての製品を左右する。
沖縄の場合は、このモルトを23万9千リットル(17万6千ドル)を輸入しているわけで、ビール、清酒に次いで第3位を占めている。このように、輸入量、地元での生産量からみると沖縄のウイスキーの消費量は比較的に少ないことがわかる。 この原因として指摘されるのが、沖縄は各国の高級ウイスキーが極めて容易に入手できること消費者価格が割高であること。
いっぽうでは軍施設内から脱税の安い外国製のウイスキーがかなり多量に出まわっているなど特殊事情を反映して伸び悩み状態である。 また業界内部でもわずか94万の人口に対して14社が乱立し、過等競争に精力を奪われ設備の稼働率も平均して40%以下というのが現状である。 したがって、本土復帰という冷たい嵐を前にして業界でも企業合理化や合併などの必要に迫られることが予想される。
いっぽう、日本復帰という大きな嵐は、冷厳なものばかりではなくむしろ復帰によつて大きな前進が予想されるのも醸界にはある。 それは古くから沖縄に伝わる泡盛である。アワモリの名は既に知れ渡っているが、本上の人々にとつてはなかなかホンモノの“泡盛”に接したことがないとさえ云われるほどである。 もちろん、本土の6大都市には必ずといつてよいほど泡盛は売られているがなかなか一般市民の間には届いていない。
このため名はよく聞くが実物はない。“マボロシのサケ”だと云われるほどである。 つまり、これほど知名度の高い泡盛も本土向け輸出は伸び悩みの状態にあるが、本土復帰となれば本土市場上陸は容易にできるというのが一般的な見方である。 したがって復帰に伴う本土業界のなぐり込みを気にすることなく、沖縄でなければできない泡盛を本土の愛飲人口の底辺までかく得できるというものである。
ともあれ、今後の対策として焼酎、泡盛やウイスキー、ビール、その他の雑酒にとって前途は相当に厳しいものである。 需要の動向、市場調査と販路拡大や企業の近代化で生産コストを低減し、“安くてうまい酒”が今後の市場を制することが当然であり、社会の変化期をひかえて醸界もいよいよ戦国時代を迎えようとしている。