近頃、家で独酌を楽しむ時に思い出す人々がいる。遠い昔日のことであるが、この方々の口から直接拝ちょうしたお言葉は忘れることができない。
「仲村君、旧盆に仏壇にお供えしたバナナあれねー、ミキサーにかけて泡盛と混ぜるとうまいクースが出来上がるよ、即席クースだ、1度試してごらん」
あの香りといい、甘みといい、聞くだけで生唾ゴクンときたが、当時の私の家にはそんな高価なミキサーなどあろう筈がない。
「僕は泡盛の度数は最低30度までが限界で、それ以下に落とすと水っぽくてうま味がなくなると考えているが仲村君はどう思うかね」
「?」
嗜好の流れというのは読みにくくてムツカシイす。
「僕は飲み屋のママたちからよく悩みごとを聞かされる。夜ねむれないので睡眠薬を飲んでいると。いやーいかんと。クースをチョコの2、3盃飲みなさい、いいクースをとすすめているんだよ、そしたら熟睡すると。
僕がウイスキーから泡盛に切り換えた理由はね、仲村君、桜坂の料理店が景気の良かった頃よく通ったもんでねー。そしたら新聞記者たちが僕の所に皆集まって来るんだよ。
いつもこういう状態では出費が大変だから1計を案じたんだ。
ホステスにマチヤグヮー(雑貨店)から泡盛の三合びん詰めを買わせて独り飲むようにした。それからは記者の連中寄って来て『なーんだ、天下のピンさんがシマーグヮーを飲んでいるのか』と言って振り向きもしなくなった」
その当時は泡盛メーカーもウイスキーを飲んでいて、バーで独り悠然と泡盛を飲んでいるこの人の姿を見て、「どこ行けば泡盛が買えるんですか」と聞いたというエピソードもある。
隔世の感しみじみといったところだ。
私にこのように語ったご先輩方はもうこの世にはいない。皆それぞれにとてもいい勉強をさせて下さった。心から感謝したい。
これ等以外にも多くの方々が泡盛について色々と語って下さった。こういった一言ひとことの積み重ねがあったればこそ時に勇気づけられ、反省させられ泡盛という酒に対する自分の考え方が一歩一歩前進してきているのではなかろうか。
私の名刺の右肩に「泡盛研究中家」と刷ってある。決して研究家ではなく「中」であり終生このままでいこうと考えている。
600年の歴史を誇る泡盛と対座して勝った人はいない。また33年余この小さな新聞を発行し続けてきた間にはいろんな酔人も見てきた。自分も含めての話であるが、中には粋人も居れば無様な泥酔者もいる。心したいものである。
ところで、いま本土で泡盛人気が上昇中である。関係者の話によると昨年の沖縄サミット開催で全国に沖縄が紹介されたこと、NHKで放映されている「ちゅらさん」効果が大きいのでは、と見ている。
それ等にもよろうが、流通の積極姿勢、メーカーの努力が大きいのではなかろうか。それに品質が良く、特にクースの魅力がある。
泡盛を扱う酒販店も増えつつある。泡盛が全国で徐々に伸びていくことは非常に喜ばしいことである。
が、爆発的に売れるとなると供給態勢は大丈夫なのか、これが気になるところだろうがどうだろう。借金してでも貯蔵施設を増やしてクースづくりに力を入れる時だと考えるのであるが。
心配ない?
2001年10月号掲載