那覇ハーリーの開催日でもある5月3日(水)、那覇市首里鳥堀にある咲元酒造では“GW感謝祭”がスタートし、取材のために出かけてきた。
ボクの家から咲元酒造まで地図上の直線距離では約1.2km。ネット上の最短ルートでは徒歩で26分となっているが、昔、一度だけ自宅から首里城までゆっくりと歩いて行ったことがあり、その時は25分以上かかってしまった。
ボクの家から咲元酒造までだと、松城中学校横の識名坂という急な坂をくだり、一度、寒川通りまで出て、金城町の石畳道を赤マルソウ通りまでのぼり、さらに首里城裏まで延々と続く坂道をのぼりきらなければならない。そこからさらに平坦な道を歩き続けるので、ゆっくり歩いたら40分はかかってしまうのではないだろうか。
この日は朝から曇り空で強烈な太陽も日差しもなく、特に他に急ぎの用事もなかったので散歩がてらゆっくり歩いて、咲元酒造へ向かおうと思っていた。家を出たのが12時前で、階段を降りて一階に着くと、突然、空が真っ黒になりいきなり強い雨が降り出した。慌てて家に戻り傘を取り、予定を変更してバスで行くことにした。
安里バス停でバスを降り、向かいのバス停で首里鳥堀方面行きのバスに乗り換えようと時刻表を見たら、なんと30分以上バスは来ないことが判明。そこは慌てず安里バス停に隣接する牧志駅からゆいレールに乗り換え、待ち時間を合わせて約20分で終点の首里駅へ到着した。料金は260円。バス賃230円と合わせると490円だった。
駅へ降りると空が明るくなり、どんよりとした黒い雲は何処かへ消えていた。5分ほど歩いたところで咲元酒造に到着。時刻は12時50分だった。乗り換えや待ち時間で意外と手間取り、徒歩でここまで来るのと、それほど変わらない時間になったかもと思った。
それにしても今年のボクはいろいろなイベントで雨にたたられている。蔵祭りや感謝祭など初日に行っていたが、なぜか初日は必ず雨が降り、2日目は青空になるというパターンが続いているのである。そしてこの日も一時だけ雨が強く降ったが曇り空である。
咲元酒造の感謝祭は華やかなステージや屋台があるわけではなく、咲元ファンや泡盛ファン、地域住民など日頃のご愛顧に感謝して、蔵内限定や数量限定の泡盛をお得な料金で販売する還元セールなのである。通常ならば青空の下、工場の駐車場のテントの中で商品を展示しながら、試飲の提供やおすすめ商品を販売しているのだが、この日はあいにくの天気のため工場内の入口に場所を移して行っていた。
ボクが会場に着いた時、東京から来たという男女4人グループと小学生の男の子を連れた3人家族がいた。東京グループはもともと咲元酒造のファンで沖縄に来るたびに咲元のお酒を飲んでいたので、いつか蔵元を見たいと思っていたという。そこで今回、GWで沖縄に遊びに来たついでに、咲元酒造に来たところ、偶然にも感謝祭をやっていてラッキーだといった。
彼らは佐久本社長からいろいろ説明を受けながら、美味しそうに秘蔵酒や限定酒の試飲を繰り返しいていた。その光景がいい雰囲気だったので撮影と掲載の許可をもらい試飲のシーン(ダジャレじゃないよ)と佐久本社長との記念撮影風景を撮らせてもらった。
4人が帰ったあと、数組のお客が来たけれど、その間に今回の感謝祭の限定商品を試飲。まず、2016年12月から2017年3月にかけて蒸留した“咲元 無濾過 44度”。独特香りがする。口に含んでみると麹やキノコのような香りがして、ガスっぽい香りもした。佐久本社長は「しばらく置いておくとガス臭は抜けて、複雑な香りがしますよ」という。確かにしばらくするとガス臭は抜け、子どもの頃の親が飲んでいた昔ながらの泡盛の香りがした。その中に茹でた野菜のような香りとバニラや花のような甘い香りも感じられた。「44度だと度数が高いので揮発性のアルコールが口や鼻に来るけど、少し水を加えると中の成分はそのままで、味や香りが表に出てきてわかりやすくなりますよ」と佐久本社長。
少しだけ水を加えて試飲すると、角があって舌を刺激するけど厚みがあって力強い味わいがある。余韻としてノドの奥に甘さが感じられ最後に甘い香りが鼻に抜けていく。無濾過なので本来の咲元酒造の原酒そのものの味というか、香りと味がまだ一致していないので、これが一体となった時には美味しい古酒になるのではないかと思った。
「この酒はボクが瓶詰めしているんですよ。香りが強すぎて詰機が使えないから、部屋も匂いがこもるので別にして、ゴミが入らないよう閉め切って、容器に入れて半日くらい沈殿させて、それからゆっくり1本1本詰めているんですよ。今回はそれで32本詰めたんですけど初日の午前中で半分は売れましたよ」と佐久本社長。
今回、これを販売したら次に無濾過を作るのは未定だという。本来の酒造りの合間というか余剰で造っているので、通常の酒造りがいっぱいいっぱいだったら造れないという。「秋の感謝祭」や来年の「感謝祭も決まってないですね」というので、カァちゃんにお酒はあまり買わないでね、って言われてきたにもかかわらず、ついついお買い上げしてしまった。
佐久本社長から“無濾過”の話を聞いていると、飲んでからしばらく時間がたったため、ノドの奥に甘さが感じられ、鼻に抜ける香りが華やかになってきた。ボクは「すごく余韻が残りますね」という。「この酒は空気に触れることで味わいが変化するため、試飲のたびに何度もビンを開け閉めすることで、最初に比べると揮発する強烈な匂いはなくなっていくんです」とのことだ。もう一度試飲を繰り返すと、確かに最初より慣れたせいもあるのか飲みやすく感じた。「蓋を開けてその日での飲むより、後に飲んだほうが味は落ち着きますよ」とも。
続いて、“粗濾過 にごり 五年古酒 25度”。濁りが生じるのはもともとの五年古酒の酒原44度を25度に加水するさい、濾過をしないので濁りが出て、それから水とアルコールが馴染むまで数ヶ月間寝かしているという。無濾過の44度を飲んだ後なので、飲み口がすごく軽く感じるけれど、あっさりとしながらも甘みがあり、香りも軽やかな感じがする。もともと3年古酒だったのが、今では5年古酒としてGWに蔵内だけで販売しているという。
続いて感謝祭限定の“2005年11月蒸留 咲元 熟成古酒粗濾過 25度”。古酒だけど25度なのでまろやかで軽い味わい。微かにバニラのような甘い香りも感じられるが、旨みがありサッパリとして飲みやすい。ビンごと冷やしてそのままストレートで飲んでも美味しそう。
次も限定品の“咲元 十年古酒 40度”。ステンレスタンクに8年貯蔵したあと、工場内の唯一の三石甕で2年貯蔵した十年古酒。ナッツのような香りが最初に来て、甘い香りとキノコのような香りもする。その奥に複雑な古酒香も感じられる。
飲み方としてビンを開けてすぐ飲むより、30分ほど置くと香りが全然違ってくるのだという。実際にお猪口に入れて30分ほどだったものを試飲すると、驚くほど味と香りが違っていた。古酒ならではの雑多な香り一つ一つが花開くように芳しい香りを主張しているのである。味もより甘くマイルドになり、コクと深みも生まれて力強い旨みも感じられた。佐久本社長も「古酒だけではなく泡盛は開けてすぐ飲むものではなく、30分ぐらい空気に触れると、泡盛本来の味と香りがするんですよ」という。
佐久本社長からいろいろ話を聞いていると、ミュージシャンのアラカキヒロコさんが訪ねてきてくれたのでスタッフみんなで記念撮影をしていた。新垣さんに聞くと「この近所で育ち、咲元のお酒は私のソウルドリンクです(笑)」といっていた。新垣さんとしばらく少しだけユンタクして、試飲のレポートに戻る。
今度は限定商品ではなく、市販されている商品。市販商品と書いたけど、咲元の商品は酒屋でもなかなか入手しにくいので、とりあえず、人気の咲元のラインナップを立て続けに試飲する。まずは「咲元 美酒(うましさけ)40度」。老麹を使用し簡易濾過しているため油成分などの香味成分がたっぷり含まれているという。口に含むと雑味のある味わいで油の香りが鼻の奥に広がり、さらにノドの奥から甘みと旨み、華やかな香りも感じられる。
続いて“咲元 粗濾過 44度”。咲元でも人気の商品らしく、原酒の旨味成分と香り成分をできるだけ残しているという。口に含んだ瞬間、舌の上にはまろやかだけど味に厚みがあり、口全体に徐々に甘味が広がり、鼻の奥にキノコのような香りが湧き出してくる。そのあとに米の風味と旨みが舌から喉の奥に伝わっていく。
次は「咲元 三年古酒 30度」。まず、ボトルが可愛い。丸っぽくて質実という感じがする。聞いたところ、日本酒で使われているが、泡盛業界では咲元酒造だけが使っているボトルだという。飲み口はマイルドで甘く飲みやすい。香りも軽く華やかなのでビギナーや女性に人気だという。米の味わいがしっかりとあるため日本酒に近い味を感じた。30度だけどよく冷やしてストレートで飲みたい。
本日の最後は“咲元ゴールド 40度”。咲元酒造の一番人気の銘柄。トロリとした濃厚な味わいで甘味が感じられる、旨さとコクのある飲み口。一般酒なんだけど古酒のような深い旨みと芳醇な香りが感じられるため人気なのだと思った。40度とは思えない飲みやすさで、2度ほど試飲をおかわり。まろやかな美味しさが胸の奥からじんわりと広がり、しみじみと美味しいと感じた。
今回、佐久本社長や咲元のお酒に詳しい担当者から話を聞きながら、展示され試飲できる商品を全部試飲した。しかも、美味しいものは2度、3度とおかわりを繰り返し、気がついてみたら、時間はあっという間に16時過ぎになっていた。少し気分もよくなったところで佐久本社長や従業員にあいさつして会場をあとにすると、急に小腹がすいてきた。
よく考えるとお昼ご飯を食べてないことに気がついたので、咲元酒造の近くにある「ななほし食堂」へ行き、カツ丼を食べ、首里駅から牧志駅まで戻り、そこから安里バス停で乗り換えて家路へと向かったのであった。それにしてもボクは泡盛を飲んだら、なんだかカツ丼が食べたくなるという事実を、この日、知ったのであった。