泡盛・新価格を設定~マージン大幅にアップ~(昭和47年5月10日)
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[公開・発行日] 1972/05/10
[ 最終更新日 ] 2016/06/17 - 読む
琉球泡盛が5月1日から値上げした。泡盛の値上げ問題は一昨年あたりから業界内部でくすぶり続けていた問題だが、相次ぐ円の切り上げに伴う賃金の360円保証や、人件費の上昇等復帰を待たずして目まぐるしく移り変る経済変動に泡盛業界は慎重な対処策を構ずべく、これまで再三にわたって理事会を開いて協議を重ねてきたが、復帰後の円経済圏に於ける本土酒類との較差や三層のマージンの低さ是正、県内洋酒類とのコスト面での適正化等が今度設定された新価格の基本となっていると云えよう。
本土に比べまだ1.8L当たり110円安
琉球酒造組合連合会(崎山起松会長)では、去る3月25日、同会2階ホールで理事会を開き、泡盛の新価格設定に関する業者の案を審議、具体的な肉付けを行い、27日の臨時総会で決定した。
この案で特に注目されるのは、これまで他酒類と比較してあまりにもうすかったマージンを大幅にアップしたことである。
本紙は以前にも“琉球泡盛の適正価格を早急に打ち出せ”と主張したが、マージンの低い酒類は、卸や小売業者にしてみれば扱わなくてもよい、或は売らなくてもよいと云う非常に消極的な態度である。
復帰後は、卸や小売業者も記帳義務があるので煩わしい利幅の少ない商品には見切りをつける時代になる。
新価格表によると、これまで生産者価格10仙(セント)だった180ml(1合)が13仙(30%アップ)に、卸価格が11仙だったのが14仙(27%アップ)、小売価格が12仙が16仙(33%アップ)。360ml(2合)が生産者価格17仙を19仙に(12%アップ)、卸価格18仙を21仙(12%アップ)、小売価格が20仙を25仙(12.5%アップ)。633ml(3合)が生産者価格30仙を32仙(6.6%アップ)に、卸32仙を36仙(12.5%アップ)に、小売35仙が42仙(14%アップ)。1,800ml(1升)が生産者価格85仙を92仙(8.2%アップ)に、卸90仙を1弗2仙(11.3%アップ)に小売95仙を1弗20仙(12.7%アップ)にそれぞれ値上げされた。
生産者価格 | 旧 | 新 | 備考 |
---|---|---|---|
1合(180ml) | 10仙 | 13仙 | 30%UP |
2合(360ml) | 17仙 | 19仙 | 12%UP |
3合(633ml) | 30仙 | 32仙 | 6.6%UP |
1升(1,800ml) | 85仙 | 92仙 | 8.2%UP |
卸価格 | 旧 | 新 | 備考 |
---|---|---|---|
1合(180ml) | 11仙 | 14仙 | 27%UP |
2合(360ml) | 18仙 | 21仙 | 12%UP |
3合(633ml) | 32仙 | 36仙 | 12.5%UP |
1升(1,800ml) | 90仙 | 1弗2仙 | 11.3%UP |
小売価格 | 旧 | 新 | 備考 |
---|---|---|---|
1合(180ml) | 12仙 | 16仙 | 33%UP |
2合(360ml) | 20仙 | 25仙 | 12.5%UP |
3合(633ml) | 35仙 | 42仙 | 14%UP |
1升(1,800ml) | 95仙 | 1弗20仙 | 12.7%UP |
※仙(セント)、弗(ドル)
新価格に踏み切った今度の設定について、業界筋では次のように語っている。
「円建て以後だったら値上げになるが、それ以前に360円読みかえしをしたにすぎず、又復帰以後値上げするとなると、乱売の恐れも出て来るので、業界の安定策が第一義である。」
又、人件費の上昇率による業界へのしわ寄せ等について、
「公共料金は全て値上がりしつつある現在、そのままのコストでいくと泡盛業界は人件費の上昇に追いつかない。現在までの価格は1966年来の料金だが、1966年を100とみた場合、人件費は130以上の上昇率である。泡盛業界でも1966年当時、平均90弗位だった賃金が約130弗となっているのが現状である。85仙の製品で30%アップするとなると、泡盛はまだその域にも達しない。」
と語っている。
しかし本土焼酎と比較してみると、1.8L当たり泡盛が約110円もまだ安いと云う。今度の新価格設定の特徴は、沖縄の特産品でありながら、他酒類に比べあまりにもコストが安すぎたきらいがあった。
そのためにかえって“シマグヮー”“バクダン”“ヤバンジンジャキグヮー”等々県民自らが卑下し、“安かろうは、まずかろうと”と陰口もたたかれ、その上、卸や小売マージンが他酒類に比べ雲泥の差がありすぎた。
そのために卸業者も意欲をなくし、小売業者は客に対して積極的に泡盛をすすめなかったのも拒めない事実だった。又、新閣下腕は生産者利純は最低限に抑えているのもこの業界がいかに今後の琉球泡盛市場の開拓に努力しているかと云う熱意のあらわれとみるべきであろう。
ともあれ、世界に伸びつつある沖縄の気候風土が産んだ銘酒琉球泡盛のメーカーは、今後消費者への定期的奉仕、品質向上の努力は更に強力に推進していかなければならないであろう。
つまり、消費者に批判されるまえに、業界自らが良質の泡盛を製造して売り、真の“良さ”を問うことこそ値上げの理由の一番大きな裏付けとなるであろう。
卸・小売店に意欲
“琉球泡盛値上げ”の報をいち早く察知した卸・小売業者は、各得意生産業者へ殺到し、業務店や個人愛好家も同様で、メーカーは平常の1日売上数量の3倍~5倍売れ、瓶詰めに追われている状態だが、生産者渡しは5月10日まで旧価格渡しとあって嬉しい反面、複雑な表情も見られるが、回転が早いだけに一称にほっとした表情だ。
しかし、貯蔵能力の浅い業者はすでに手持ち薄となってきており、多い業者でもそれなりに早い回転を余儀なくされている状態で、この新価格設定は文字通り泡盛業界にとっては“復帰精算”と云えそうである。