特許庁派遣、工業所有権調査団来沖~法の厳しさを説明~(昭和46年7月30日)

  • [公開・発行日] 1971/07/30
    [ 最終更新日 ] 2016/03/25
   

困惑する洋酒・泡盛業界

1971_7_30_trademark-rights-investigation_industrial-property-rights-investigation-team-came-in-okinawa沖縄に於ける業界の実態や工業所有権制度の説明等を目的に、去る7月26日から6日間の日程で沖縄を訪れていた特許庁派遣の工業所有権調査団(団長:佐藤文男同庁審査部長)は、27日午後3時20分より琉球酒造組合連合会3階会議室に泡盛業者を招いて、復帰後即時適用される本土の関係法令について説明し、又業界の意見聴取、質疑を交わした。

泡盛業界の場合、有名銘柄の商標がほとんど本土に登録されているとあって、業者も深刻な表情で意見を交わした。又、翌28日は午前10時より、ひめゆり通りの中央相互銀行支店地下レストランで、県内洋酒メーカーと同様趣旨の懇談をもち、活発な意見が展開された。さすがに少数ではあるが、猛者の多い業界だけにかなり強硬な意見も出された。

同調査団の来沖が業界の実態を把握するのと、未登録業者への法的説明、そしてこれ等を復帰時点でどう調整していくかが主目的となっている。だが、法的面ではかなり厳しい説明がなされた。琉球酒造組合会には、同庁第一部商務第一課審査官の石塚直彦氏、法規班長の三野正博氏、通産事務官の藤島安之氏の三氏が説明を行った。

県内洋酒業界には石塚氏がそれぞれ説明に当ったが、まず、商標権とは私権(財産権)であり、類似商標として抵触するラベルは相当数あり、例えば南光と楠光でも抵触すると云うことだ。

中味は泡盛でも、清酒でも類似商標であればひっかかると説明、つまり、第28類の酒類の部、日本酒(清酒、合成清酒、焼酎、泡盛、みりん、白酒)直しととなっており、洋酒(ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、ジン、アブサン、リキュール、ビタース、ビール、ラーガービール、黒ビール、スタウト、合成ビール、果実酒、ぶどう酒、りんご酒、いちご酒)と定義付けられている(薬用酒を除く)。

これまでの業界の“考え方”が甘かった訳だ。これまで泡盛は独特な酒で、他酒類とは全く違うとみて来た“甘さ”はこの定義に謳われている以上、どうしようもない。所謂(いわゆる)酒類の種類が包括されていて、その中に泡盛もあるのであって、法をたてにする限り、泡盛も日本酒の酒類に該当するのである。

特許法では1時間、1分でも早く申請したものが先使用権が認められる訳で、その有効期限は10年となっており、10年更新(旧法では20年。昭和35年4月1日改正)となっている。しかし、3年間操業停止した場合は無効となる。同調査団も指摘しているように、問題は復帰の時点で相手側から裁判に訴えられる様な事態になった場合どうなるか等、問題は大きくなる。

同調査団との主な質疑応答を列記してみると、
(1)本土のラベルと沖縄のそれは、沖縄と泡盛の標示があるので先使用が認められるのではないかと考える。
(2)鹿児島の本坊酒造の“本場琉球泡盛”のラベルはどうなるかとの質問に対して、「これは一番困る問題になるだろう」
(3)地元で先使用権を主張しても、本土メーカーからクレームが出て来ることも十分考えられる。そうなると、裁判所で競われることになり、当局との関係ではなくなる。
(4)現時点で出願提出した方が有利である
と助言した。

本士官吏の態度に怒る洋酒界

一方洋酒業界(10社)との説明会では、現地ブレンドしている業者が、本土のラベルに住所等が違う印刷がされている場合はどうなるのかとの質問に、「それは本士側ラベルに統一されるだろう」と説明。

又、アメリカ等外国のラベルを使用して現地ブレンドしている業者はどうなるかとの質問には、「本土に登録されている等で問題はない」と答え、中味が違ってもラベルとか文字が同一の場合はどうなるのかとの質問に、「本土のビールは縦にオリオンビアと書かれていて、現在使用しているかどうかは知りませんが、オリオンビールの場合、現在取り消し審判中で、それが通れば問題はなくなる」と説明した。又、「今後、モルトを輸入してブレンドしている業者は、図柄面の契約も交わしておく必要がある」と指摘。

復帰後も本土には出さないから、沖縄だけで売るのは認めて貰いたいとの業者の要望に、「沖縄だけを認めようと云うのは、これ自体違法であってできない」と説明。

これもダメ、あれもダメといきなり本土法をおっかぶされた形になった業者は、本土要人の言葉が復帰前に云われてきた「特恵措置」をすると言う内容と違ってくる中、「今頃になると法的に一方的な面だけで通されたのでは被害を蒙(こうむ)るのは沖縄だけではないか」「この際、消極的な態度では駄目だ、復帰になった途端、ああしろ、こうしろと云われても納得できない」「ご無理ご尤(もっと)もではなく、相手の出方によって逆にこちらから賠償を求めるべきだ」との強行な発言も出て問題の深刻さを浮きぼりにした。

問題はこう云った意見も含め、同庁がいかなる具体的措置を講ずるか注意深く見守っていく必要があろう。

解説

商標権の問題は、これまで業界内部であまり重大で身近なこととしては考えられていなかったきらいがあった。

例えば、泡盛業界にとっても一部業者はいち早くそれを察知して特許申請を出しているが、他は座して待つとまではいかないけれども、琉球泡盛は独特な“サケ”であり、類似商標が本土にあっても影響しないだろう、或いは特別な扱いを受けるだろう位いに考えていたのが実情だったと云えよう。

ともあれ、問題は早急にどう手を打つかである。同調査団も指摘しているように、特許庁は産まれるまでの面倒はみるが、生まれた子供が男か女かまでみる議務はない。あくまでもお産婆であると云う意味をよく考えてみる必要があろう。

なるほど、一国に2つの商標があり、片方が侵害をたてに訴えれば問題は裁判所に移り、1週間でも生産販売の中止を命じられたら倒産である。或いは意地の悪い業者がいて、復帰の時点で損害賠償の挙に出てくることもあながち考えられないことでもない。

同問題解決の方法としては次のことも考えられるのではなかろうか。すなわち、泡盛業界の場合、復帰後は日本酒造組合中央会と云う膨大な組織内に入るが、その組織を通じて委員会の中で調整して組織内で解決していく。つまり、業者間の和解が成立するよう努力をすること。

この問題は去る6月、石川中央会長が熊本での通常総会の帰り、沖縄に立ち寄った時にもチャンスはあったであろう。更に現在折衝(せっしょう)中の関係省へ強力に沖縄の特殊事情を具体的に訴えること、いまひとつは、酒類の酒類の項に“琉球泡盛”を定義づけさせることである。

しかし、この3つを考えあわせた場合、1番の早道は第3の方だと考えられるが、どれもこれも先ずは業界の団結がなければこの業界は復帰後、窮地に立つであろう。

その点、洋酒業界の場合は、それぞれ独自なプランがあり、リーダーもがっちりしており団結心も強く、事に対処しやすいと考えられるが、いずれにしても両業界とも今後は消極的な態度をかなぐり捨てて、対本土政府への姿勢を示すべきであろう。

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