クースも仕事も失った男~毎日(めーにち)ミートゥンダオーエー~

   

「山原(やんばる)島酒之会」なるグループがある。名護市を中心に北部全域に会員が居るが、awamori_yomoyama_64_yanbaru-shima-zake-of-meeting_jyabana-ryousei_failure-storyこのグループ実に壮大な理念に燃えていて、北部の全家庭の床の間に一斗壺に43度の泡盛を詰めてクース(長期間貯蔵熟成泡盛酒)づくりをしようと呼び掛けて活動しているのであるから見上げた面々だ。

で、このグループの顧問をしでいるのが、沖縄でクースづくりの第一人者、謝花良政さんという本部町谷茶出身の方である。つい最近私に届いた同会発行の通信第17号に、この謝花さんの寄稿文が掲載されている。

今号は氏の文章をストレートに転載し紹介する。読者諸賢もこの文章で自戒いただければ幸いである。見出しは「クースも仕事も失った男」とある。

『丁さんはクースづくり歴10年』である。シャム南蛮三本でクースづくりを楽しんでいる。若い頃から泡盛好きで、地元では名立たるサキジョーグー(大酒飲み)だ。

昔からサキジョーグーにはクースはつくれない、といわれているが、彼はこれまで10年間も無難に頑張ってきた。3年振りに彼と会う機会があり、『君のクースも大分良くなっているでしょう』と聞いてみた。

彼はクースの話をしたら、急にしょんぼりしたようにに黙り込んでしまった。『どうしたのか』と聞いたら、しばらくして『このことは恥ずかしくて他には言わないでしょうね』と確認してから

『実は、昨年7月に友人とわが家で泡盛を飲み、次第にメーターがあがり、かなり酔ってしまった。その時、友人が『甕に振動をあたえるということは、どのようにするのか』と聞かれた。その時、私はいいことを聞いてくれたと思い、『これから私が教えてやるからよく見るんだよ』と床の間に鎮座している3本のシャム南蛮に近寄り、酔った勢いでガックンガックンとカーミを揺(ゆす)った。

その瞬間に隣のカーミにぶつかってガチャンと大きな音と共に2本のカーミが割れてしまった。座敷はクースでびしょ濡れになり、酔いも一遍に吹っ飛んでしまった。チュラーサ、チルダイしてしばらく放心状態になり、10日間仕事をするのも嫌になり、会社を無届け欠勤してしまった。

そのために1週間後に社長に呼ばれてリストラされ、カーミとクースだけでな、仕事も無くなり、踏んだり蹴ったりの状態に陥ってしまった。

『デージナトーシガ(大変なことになってしまって)メーニチミートゥンダオーエー(毎日夫婦げんか)ソーシガ(やっているが)何とかならんかネー、やっぱり酒(サキ)ジョーグー(上戸)はクースづくりには向いていないのかネー』と嘆いた。

まあなんだかんだ言っても、クースづくりに勝る最高の趣味はないと思いませんか。いろいろ失敗した皆さん、失敗は成功の元です。これからも懲りずににクースづくりに頑張って下さいネー。」

謝花さんのクースづくりの文章は他にもたくさんのエピソードがあるが、以下は次号で紹介したい。このような転載記事を書いている私自信もクースづくりの失敗は過去にも多く体験しており、現在でもまだ続いている。

ことほどさように、クースづくりの奥の深さは自分の子供を育てていく過程であり、人間そのものを磨いて行くことでもあり、60年以上も琉球泡盛と対座している自分にとっても生涯の課題であろう。

【2004年6月号に続く】

2004年5月号掲載

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