古来、琉球泡盛の古酒を愛でた文化人は数多いが、その中でも特に有名なのが、琉球国の最後の国王尚泰の四男、尚順男爵(1873~1945年)である。戦前の泡盛古酒の香りを語る時、必ずと言っていいほど引用されるのが彼が分類した三種類の香気「白梅香かざ(びん付け油の香り)」「トーフナビーかざ(熟れたホオズキの香り)」「ウーヒージャーかざ(雄山羊の匂い)」である。
このことは、戦後編さんされた尚順男爵遺稿集(松山王子尚順遺稿)の古酒の話・追記にて述べられている。そして、この遺稿集の古酒の話の中には、尚順男爵が紛失したある雑誌を探してほしいと願う別の一文がある。
以下、尚順男爵遺稿集より引用。
「慥(たし)か昭和八、九年頃、一、二月号キング雑誌に琉球泡盛の古酒は世界第一の銘酒だと礼讃せし記事を見たことがある。私も此の雑誌は持っている積もりだが、今一寸見当たらないので、誰方かその記事を発見されたら月間琉球の編輯部(へんしゅうぶ)か、又は小生に迄ご通知あらん事を希望する。」(引用終わり)
1930年ごろに古酒について書かれたキングという雑誌を見つけてほしいとの一文である。
そして、今年、80年以上も昔に出版されたその雑誌と思われるものが国会図書館にて発見され、9月4日に開催された琉球泡盛倶楽部(長嶺哲成会長)主催の古酒の宴にて、その写しが登場した!
尚順男爵が探していた雑誌を発掘したのは、琉球泡盛倶楽部の副会長でもある比嘉奈津美衆議院議員。その他の資料とともに資料集として古酒の宴参加者に配布された。その雑誌キング1932年(昭和7年)の「食卓の話題~おもしろい酒の話~」には泡盛の古酒が次のように評されている。以下雑誌キングより引用。
「日本酒は1年酒だけれど、同じ日本でも、琉球の泡盛となると二百年以上経ったのがある。それ等の古酒を貯蔵した甕から、仮に一升酌み取ったら、直ぐ新しいのを一升入れて置くと、ちゃんと混和同化するといふので、この点蒲焼きのタレと同じ筆法である。其味たるや、ブランデーの上等も及ばぬ程の美味であって、正に世界に誇るに足るものである。」(引用終わり)
戦前沖縄にあった泡盛に関する資料は、先の大戦にてそのほとんどが焼失、紛失した。そのような中、貴重な資料を国会図書館にて発掘し、古酒の日に披露した琉球泡盛倶楽部のこの度の功績は計り知れない。