泡盛業界に望む~琉球大学助教授 宮里 興信~

  • [公開・発行日] 1970/01/01
    [ 最終更新日 ] 2015/11/23
   

はじめに

1970_1_1_japam-mainland-return_awamori-brewery-management-measures沖縄県民が均しく待望していた祖国復帰もいよいよ1972年という目途がついた。とはいうものの佐藤、ニクソン共同声明の内容は必ずしも喜んでばかりはおれない幾多の疑問点を残し、憂慮される面があって注目の的になっていることは衆知の通りである。

さて復帰を目前に控えて醸界飲料新聞から泡盛業界に望むことを一筆書いてもらいたいという御依頼を受け、うかつにもお引き受けはしたものの、実は業界の皆様が既に数年前から復帰への体制固めに真剣に取り組んでおられるので、敢えて何も申上げることもないが、お引受けした手前、釈迦に説法で終るかもしらないが思いつくまま、私なりの希望を述べて責めを果したいと思う。

祖先の残した銘酒泡盛

沖縄の酒は、阿波根朝松先生の「沖縄文化の歴史」によれば、既に1,300年前からつくられていたようである。しかし当時の酒は製造法が現在の泡盛とは全く異なっており、本土の清酒の先祖ともいうべき濁酒(どぶろく)に似たものでウンサク又はグジンシユと云われオミキとして用いられていたようである。

その後南方との海外貿易が盛んになり、シャム(今のタイ国)の蒸溜酒ラオロンの製造法が伝わり、蒸溜器や容器類が取り入れられて現在のような泡盛が醸造されるようになったものと思われる。今よりおよそ五百数十年前のことになる。

このように古い歴史を有する沖縄の泡盛が徳川時代の大名方により蒸溜酒のうちでも最高級酒として珍重され、薬酒として飲用されていたということであるが、近年に至る沖縄の銘酒として泡盛の名は日本全国に知れ亘り、沖縄と云えば泡盛で表徴されるまでに至っている。

なお今年、大阪で開催される万国博覧会には4,000軒の酒造業者中より選抜された45社の出品々目中に泡盛もお目見得するとのこと、業者はもとより全県民のよろこびである。戦前戦後を通してこのように泡盛の真価を発揮することが出来たのは、勿論全泡盛業者のたゆまざる努力と熱意の賜と敬意を表する者である。

しかし我々の大先輩である祖先が長年の経験によって生みだした酒造技術の集積によって今日のような銘酒泡盛と賞賛される酒になったことを忘れてはならない。すなわち、現在の泡盛醸造法の工程をみると、ほとんど改善された点はなく、大部分は先祖の残した技術を墨守しているに過ぎないのである。

強いていえば製麺法が機械化されたこと、醸の手入や製品の商品化および輸送などが近代化されただけであって、それも全琉58工場中、僅かに数軒に過ぎない。酒造技術そのものは、500年前の昔から現今に至るまで科学的にみて、ほとんど変った処はないと云っても過言ではないと思う。

祖国復帰に備えて望むこと

先ず考えられることは、近日に迫っている万国博覧会を契機として全国の愛飲家に認められて名実ともに銘酒泡盛としての真価を発揮して、輸出高も伸びるに違いないことである。したがって各業者においても既にその対策を講じて準備を進めておられることと思う。

ここで戦前、戦後の泡盛の年間生産量と本土向移輸出量の比較をしてみると次のようになっている。

戦前(昭和10年から昭和14年迄の5ヶ年平均)
年生産高:33,433石(約6,154キロリットル)
年移出高:13,459石(約2,444キロリットル)

戦後(1968酒造年度の酒運統計による)
年生産高:6,526キロリットル
年移出高;186キロリットル。

すなわち、生産数量を比較すると戦後は372キロリットル戦前より多くなっているが、輸出量においては戦前の輸出量の一割にも足りない数値を示している。ところが、酒そのものの実量を度数換算によって示すと、生産量においてもはるかに戦前に及ばないことがわかる。今その数値を示すと次の通りになる。

戦前(アルコール濃度45度として換算)
年生産高(5ヶ年平均):約2,769キロリットル
年移出高(5ヶ年平均):約1,100キロリットル

戦後(アルコール濃度30度として換算)
1968酒造年度生産高:約1,986キロリットル
1968酒造年度輸出高:約83,7キロリツトル

以上のように泡盛の生産量および輸出量は何れも戦前に比べ、はるかに及ばないのである。この対策として業者は既に経営の合理化、製造工程の近代化を目指していろいろと検討しておられるようであるが、問題は単に増産のみに終始しないで、品質の向上はもとより歩留りを高めることも忘れてはならない。

醸界飲料新聞でも或業者が指摘しているように、本土の焼酎と泡盛の歩留を比較すると相当の開きがあることは衆知の通りである。したがって今度復帰への体制固めとして考えなければならないことは、先ず増産であるが、歩留を高め、品質の向上を計り、常に銘酒泡盛としての真価を世界に広く堅持することである。

むすび

その為には原料処理から製品に至るまでの工程をすべて科学的に管理することが先決ではなかろうかと考える次第である。

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