瑞穂酒造、1971年度経営方針(昭和46年4月29日)

   

創業嘉永元年、124年の歴史を有する瑞穂酒造はこのたび2万石工場落成を迎え、1971_4_29_mizuho-syuzou_management-policyかつ経営方針発表会を催す事が出来ましたことを社員の皆様と共に喜び祝いたいと思います。去った第2次世界大戦で全てが廃虚と化した中から、いち早く我が瑞穂酒造を再建し、工業復興のはしりとして琉球経済に貢献しつつ、あらゆる苦難と斗(たたか)う中で、業界一販売量をもつ今日の姿にまで発展してまいりました。

これは時代のすう勢もさることながら、社員ひとりひとりのたゆまざる努力の賜であり、心から皆様に感謝申し上げる次第でございます。

さて昭和46年度(1971年度)の起首を迎えるに当り、我が瑞穂酒造が真に個人経営から企業として脱皮し、一大飛躍の年としてとらへ、沖縄では全く初めての経営方針発表会を催すことになりました。

沖縄の本土復帰を来年に控え、沖縄を取巻く社会環境は大きな変革期を迎えました。過去25年の間、本土から切り離された沖縄一県として過保護の経済界の中であらゆる企業が発展してまいりました。

祖国復帰が来年の前半期でようやく実現することに決定した現在、心情としては誠に喜ばしいことでありますが、一方企業の観点からとらえるならば、これ又誠に厳しく多難な年と云わねばなりません。

従来までは外敵に対しては琉球政府が保護してくれたのでありますが、これからは3段跳びで一挙に国際競争下に投げ出されるわけであります。本土を始め外国の百戦錬磨の同業者と素手でぶつかり競争し、これに打ち勝たねばなりません。

特に我々泡盛業界は企業基盤が脆弱な上に、復帰後の原料代の値上げ、嗜好の変遷、流通過程等解決が迫られる問題が山積みされておりますので、同業者の競争、業界内部の混乱は更に厳しくなるものと思われます。

しかしこのような時こそ、瑞穂の真の力を発揮する時であります。消費者の泡盛に対する考え方がただ酒であれば良かった時代とは異なり、国民の生活水準の向上に伴い、品質の良い飲み良い酒を要求しております。

貯蔵すれば必ず売れる

ここでこそ10年保存の古酒「瑞穂」を全面に押し出し、我々瑞穂60名の社員が一体となって「保存された良質の古酒瑞穂」をより多くの消費者に提供すると云う本来の使命に向かって瑞穂の力を発揮し、大衆の泡盛に対する啓蒙を図らねばならないと思います。

この時に当たり、社内の意思統一と昭和46年度の重点指導徹底を図るため、以下のような経営スローガン及び経営方針を決定いたしました。これを逐次説明申し上げます。

我が瑞穂酒造は製造、貯蔵、品質、販売の全ての面で超一流でなければなりません。貯蔵の面では数年前から酒造業者に先駆け資金を投入し、「貯蔵さえすれば必ず売れる」との信念に基づきこれまで精一杯やって参りました。

現在、御承知の通り10年保存の古酒は、他の業者の酒とは比較にならないほど“まろみ”のある喉越しの良い酒としてお客様に喜ばれております。しかしこれで満足しているのではありません。

製造から瓶詰めまで仕事をする皆様が「超一流品をつくるにはどうすればよいか」を考えて仕事に取り組んで頂きたいと思います。

販売体制に致しましても超一流品をより多くのお客様にご愛飲いただくために(株)田辺経営の指導のもとに、キメ細かな販売戦略を取り入れ、積極的な販売方法を実施したいと思っております。又、社員の待遇についても超一流経営に見合うような前向きの姿勢で対処したいと思います。

旧態依然の考え捨てよ

沖縄での泡盛の全消費量は年間4万石でありますが、今度我が社は実に半分の2万石を製造できるようになりました。これはすなわち首里傘下の瑞穂から沖縄の瑞穂への脱皮を意味します。

ところが社員の我々が工場増設・増産に追いつかず、これからも旧態依然とした考え方をもって職務に当たって行くようでは、誠に悲劇という他にありません。企業の成長は社員の成長なくしてはありません。

これまでのような家内工業的な考え方を捨て、3年後、5年後の沖縄の瑞穂として、大きく考え、大きく行動し、大きく脱皮していただきたいと思います。

大きく行動せよ

私は1965年、北海道ではじめて全自動連続蒸米機を見、その当時はそれほどまだ販売量も伸びていなかった時代でしたが、私は5年後には我が社にこの機械を設置しようと心に念じ、その設置のためにあらゆる努力を重ね、今日に至っております。

又、貯蔵の面におきましても、1~2年前、私が大型地下タンクをどんどん作り、他の業者にとやかく云われながらもあれだけ設備に投資してきたことも、今日の状態が予想されたからに他ありません。

泡盛は安い酒、シマーグヮーというイメージは、貯蔵さえすれば必ず考え方も変えられると信じ、これまでやって参りました。まだまだ十分とは云えませんが、私も大きな目標で大きく行動していきたいと思いますので、社員の皆様も従来の態勢を捨て、大きく考え、大きく行動する社員として頑張ってもらいたいと思います。

次に経営方針を申し上げます。瑞穂酒造の創業は先々代、つまり嘉永元年ですので今年で124年になります。この長い伝統の上に瑞穂の本当の良さは培われてきたと考えます。「酒は生きもの」です、伝統と長い経験が良い麹(コウジ)、良い醪(モロミ)、良い酒のできる条件だと思います。

私は3代目に当たりますが、生まれた時から泡盛製造の天命が与えられたようなもので、私が物心つく頃には、すでに母親を助けて酒造りに従事してまいりましたが、戦時中の厳しい苦難な時代にも長い経験を買われ、陸軍省の糧秣本廠(りょうまつほんしょう)から南方のビルマ(現ミャンマー)へ酒造りとして派遣され、決死の意気込みで連日30℃を越す現地で泡盛の製造に成功いたしました。

戦後は全てが廃虚と化した中のゼロから出発し、皆様と共に苦労に苦労を重ねて現在まで発展させて参りました。この様な瑞穂の伝統は、品質の面でも十分に尊重されなければなりません。

がしかし、経営のあり方については過去と断絶し、社会の要請に応えつつ新しい体制につくり変えなければなりません。全社員一体となって、古い態勢を捨てて、新しい企業としての体制づくりに邁進しようではありませんか。

社員待遇、信賞必罰

与えられた仕事は如何なることがあっても必ず実行する。決められたことは、決められた時間までに必ず実行する人でなければならない。

特に販売の面で申し上げますと、目標が設定されると、その目標を必ず達成し、成果として計上されるシステムをとるべきです。誰かがするだろうと云う他力本願的な考えを捨て、自分が行わなければならないと云う積極的な行動をやって貰いたいと思います。

社員の待遇についても信賞必罰で、成果のあった社員はそれ相当の評価を実施していきたいと考えます。

ものと時間を大事にしよう

各部門、各人の担当の目標が定められたら徹底してその目標に向って努力する。そして目標達成のため仕事の順序、方法、結果を確実に記載し、“ムダ・ムラ・ムリ”を排し、目的達成の最短距離を行く効率経営を実施していかなければなりません。

特に物と時間との無駄にわけて考えますと、我が社はまだまだ無駄の宝の山を持っていると云わねばなりません。物について例を掲げますと、工場のこぼれ米の問題、酒粕の問題等まだまだ解決されていません。

瓶詰め部門では、レッテル1枚では極めて少ない原価ですが、年間を計算してみますと莫大な原価になります。酒1升を85セントで売っても3セントの利益にしかなりませんが、瓶1本の破損を防げば10セントの儲けとなることを忘れてはいけません。

時間についての無駄は、勤務時間内は時間通り稼働しているだろうか。一度で用のたせる場所に注意不十分のため二度も行ってはいないだろうか。整理整頓を怠り、勤務時間中に探しものに時間を費いやされていないだろろか。まだまだ検討しなければならない問題が数多くあります。

はじめの例を掲げて説明いたしますと、各人が5分位いと云う軽い気持で休む場合、1日60名で5時間、1ヶ月で130時間、1年ではなんと1,600時間にもなります。これに平均時給をかけてみますと、630ドルにもなります。

要するに、帰る時間を少し早くしたり、仕事中にちょっと手をはなしたり、又は探し物をしたりする無駄を1日の内10分でも各人が行えば、1,260ドルの損失を会社に与えることになります。

又逆にこの時間的なロスを無くすることができれば、1,260ドルの利益を計上することができます。私達がこのようなロスを無くすることが会社に利益をもたらし、そして必らずや社員の豊かさに連なるものとの自覚を持って励んで欲しいと思います。

私も体調回復、陣頭立つ

我が瑞穂の酒は一流品でなければなりません。同じ費用で良い酒も、悪い酒もできると云う事実を自覚し、一流品を造るための努力を行わなければなりません。

私はこれからも酒を古くするための努力を続けていきます。全社員が魅力ある酒造りに頑張ってください。又販売体制に致しましても従来の方法から脱皮し、このような良質の酒を1人でも多くの人に味わって貰うために思い切った販売体制を実施せねばなりません。

私も体調が完全に快復し、これからは販売対策に力を注いでいきます。

福利厚生施設も充実

私は常に人の和を重点にして、和気藹々(わきあいあい)とした環境づくりをモットーとしてやってまいりました。これからも社員との対話を密にして働き甲斐のある職場にもっていきたいと思います。福利厚生面でも要求する、しない問題を越えて他に先んじて、前向きに実地いたします。

瑞穂の良質の酒造りに、私と共に命を懸ける60名の社員は物質的にも精神的にも豊かでなければならないとの基本的な考えをもっております。しかし仕事の面では復帰を来年に控え、一段と厳しさを増すととが予想されます。

人の心と心のふれ合う中で、仕事に対しては厳しく対処することこそ誠の企業の脱皮と云わねばなりません。厳しさの中に成果があり、成果があれば自分達の利益として返ってくるんだと云うことを理解され、頑張って貰いたい。

以上、経営スローガン、経営方針をご説明いたしました、来年の今頃は“このような実績をあげました”と云う事を今日おいでいただきました来賓の方々の前で堂々と発表できるようにしたいものだと思います。

どうか私の意のあるところを汲んでいただき、“復帰”までの1年間、心を新たにして共に頑張っていこうではありませんか。

全体レポート「瑞穂酒造、経営方針発表会開く~2万石工場落成を記念して~(昭和46年4月29日)」はこちらを参照

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