ハブ酒はただ今冬眠中!!~ハブ酒のその後~(昭和47年5月10日)

  • [公開・発行日] 1972/05/10
    [ 最終更新日 ] 2016/06/26
   

1972_5_10_habu-snake-liquor-this-year-is-not-manufactured2度目のハブ酒造場訪問である。八重山石垣市字石垣258番地(現:沖縄県石垣市石垣1834)にある八重泉酒造場(座喜味盛光代表者)は先に訪問した時と全く同じ静かなたたずまいであった。がしかし、一歩工場内に足を踏み入れて見ると、以前よりも活気が増している。蒸溜も盛んだが、工場内に設けられた特別室の“袋”数が多くなっていること、仕込み容器数が多くなっていることだ。

“袋”の中には2匹ずつのハブが入れられている訳だが、昨年の異常干ばつで買い貯めさせられたそうだ。“干ばつと関係ありや?”と首をかしげる記者に座喜味氏はこう答えた。つまり長期干ばつになると、ハブの行動半径がせばめられ、水を求めてくるらしい。

そうなると居場所が大体解るから、ハブ取り商人?はその界隈を捜索する訳だ。異常干ばつでサトウキビの被害は想像を絶し、農家は収入の途を絶たれ、お陰でにわかハブ取り名人が増え、1人で一晩に10匹からのハブを捕獲して売りに来た豪の者もいたと云うからオドロきである。

1匹の値段が2弗(ドル)50仙(セント)だから、金額〆て25弗也だが、この場合は数が問題だ。特に川原、宮良、伊野田部落の人が多く、伊野田部落では青年団の資金づくりに繰り出し、一晩で50弗の資金をつくった例もあるそうな。

ちなみに夜夫が家でブラブラしていると、ハブ取りに行けと急き立てる妻もいたと云うから干ばつのしわ寄せで家計を預かる主婦としてはこうも云えたであろうことは頷けるが、相手が相手だけに考えさせられることではある。

お陰で今年は製糖期だと云うのにめっきり減っていると嘆く座喜味氏には悪いが、吾々人間さまにとっては有難いことだ。プロの座喜味氏は最近新型のハブ捕獲機なるものを考案して、自分でつくってあるが、これは2度目に成功したもので、最初は先端をラッパ状に試作して名人にこれを使用させたところ、1匹もとらずに帰ってきて云うには、先端の太い部分に、ハブが隠れて見えなくなるとの実験談に、座喜味氏もはたと感づき、これを改良して作られたものが現在使用されている。

これは先端がハサミになっており、上部はノコギリ状、下部は8番線を使用し把手(とって)は引きがね式、棒はビニールパイプで先端からこの棒の中を小さな線を通してあるが、獲物を先端ではさみ、引きがねを引くと胴以下であっても全然抜けなくなる。

さて、現在貯蔵されている数量は4合入ステン容器7本(1本に200匹入れてある)、1石甕20本(1本50匹入)と2升入ガラス容器数百本、更に現在4石入ステン容器20本を製作中である。

これだけでもまだ足りないと座喜味氏は云う。大きな貯蔵倉庫も欲しいと語っている。現在製品の売れ行きは殆どが本土からの観光客だが、持ち帰った客の口コミで、以前にも増して売れ行きは上々である。しかし座喜味氏は急がない。

ゆっくりと落着いて物事を判断する性質だから、卸や小売ともセーブして出している。チャンスを待つのだ。ハブ酒の効用はもうすでに学識者からも認められているのだから、今はただ三度のオマンマにこと欠かないだけのカネがあればいいと云う考え方だ。

今は“販売よりも豊富な貯蔵”これが座喜味氏のビジョンである。云うなれば今は戦力を貯える時期だと云う考えのようだ。だから強いて宣伝もしない。まさにその分野のパイオニヤであり、軌道に乗せ得た第一人者にふさわしい見事な達観と云えよう。だからハブ酒はただ今冬眠中なのである。そして時機を見て本土の未開市場へ乗り込んでいくことだろう。

いっぽう原料のハブだが、去年のような乱獲による買い貯めがなければ養殖の計画も具体化していたであろうと語る座喜味氏は、3年前から既に養殖を真剣に検討していたが、現在は一時保留と云ったところである。養殖となるとエサの選択や他の条件づくりが一番難しい問題だと話している。

場合によってはつくると云うから或は5~6年あとには八重山に又新しい観光名所が見られるかも知れない。「正直云って養殖しては採算はとれない」と前置きして、卵から成長するまでに5ヶ年はかかると云われているが、小さなものは2~3年ではつくれるからこれなら採算はとれるだろうと話している。

以前本誌に紹介した「ハブ酒の作り方とその効用」は話題を読んだが、あれにはハブの油の話は詳しく書かなかったので、ここで油の効用についてちょっと触れてみたい。

八重泉酒造では最近、ミニのポリ容器にハブの油をつめてあるが、これは霜焼けには覿面(てきめん)に効き、痔病や水虫にも効果は100%だと云う。又、早漏にも効果があり、八重山ではちょっとしたブームを巻き起こしているようだ。つまりいざ開戦と云う時に男性の一物にくまなく塗りつける訳だ。

記者もこの貴重なモノを分けて貰ったがまだ実戦には及んでいないので、近く試みようと考えているが。

人間の天敵「ハブ」は、このハブ酒づくりの名人座喜味氏によって猛毒も妙薬に変えてしまうのだから、氏は全琉の人々の恩人である。ともあれ、ハブ酒は復帰以後益々人気を呼ぶのは間違いないだろう。

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